母の教え:メロなんかに負けるんじゃないよ!
小学生の後半にもなると、男子より女子のほうが身体の成長が早くなりますので、ドンドン、女子の勢力がクラスの中で強くなります。
そんな時期に、母は私にこう言いました。
「この前、お前の同級生の女の子が道を歩いていたから声をかけたのさ。
そしたらね、『あなたのお母さんは元気かい?』と聞いただけなのに、『そんなこと、おばさんに関係ないでしょ』と言うんだよ。
もう私はびっくりしてさ、最近の女の子はこんな人間になってしまったのかと残念に思うし、腹が立ったので母親の顔が見たいと思ったよ。
いいかい、メロ(女)なんかに負けるんじゃないよ!」
と、ものすごい剣幕で僕に不満をぶつけました。
母が声をかけた幼稚園時代からの同級生の娘は、クラスの中でも最近、元気が無いので僕が声をかけたらね・・・
「お母さんが病気がちらしくて働けないので、お父さんがお酒を飲む金が無いとお母さんを怒鳴りつけてる」と教えてくれたんだ。
母にとっては、幼稚園からの僕の同級生なので、親も家族も親戚もみんな知っているので、いつもの挨拶のつもりで声をかけたのに、その娘の反応に頭がきたみたいです。
その娘のお母さんのことを話すると・・・
「そうかい、そうだったのかい。それは、私も気遣いが足りなかったね。
わかったよ、あの家は、お母さんが病気なら野菜を上手に作れないと思うから、私が作った野菜と漬物を持って行くわ。
いいかい、あんたは一切、このことをその娘に言うんじゃないよ。
男はね、腹が空くとすごく怒りっぽくなるので、いつも、お腹いっぱいにご飯を食べさせておけば大丈夫なのさ。
だから、我が家の新米も一緒に持っていくけど、あんたは一切、”知らぬ存ぜぬ”で通しなさいよ。
それが、”思いやり”ってもんだからね。」
母に教わることは、毎回、深く納得します。
怒る時も本気で怒りますが、その怒った理由もちゃんと後で説明してくれるので、私でも理解できるからです。
翌日、その同級生の娘に会うと・・・
「吉岡くん、あなた、私が話した家のことをお母さんに話したの?」と聞かれました。
母が言ったことの意味はこの事かと思って驚きましたが、完全否定したので不思議そうな顔をしながら、
「だったらいいけど、あなたのお母さんにお礼を言っておいてね。私のお母さんがお礼を伝えておいてと言われたので・・・」と言われました。
家に帰って、母にお礼の件を報告すると、
「そうかい、そうかい、いい娘だねえ。(涙)
母親の気持ちを組んで、自分でお礼を言ったんだと思うよ。
だって、あの娘のお母さんは、食事も作れないくらいに身体が弱っていたので、いつも娘が料理を作ってくれていると教えてくれたんだよ。
できた娘さんだね(^^)」
この半年後、その同級生の女の子が、朝から机にへばりついて泣いていました。
いくら聞いても、泣いてる理由は教えてくれません。
家に帰ってから母に何があったのかを聞くと・・・
「あの娘の家は、本当に貧乏で、お父さんは仕事をしないで酒を飲むし、お母さんも体が弱くて病気がちだからと、お父さんの兄弟の家に子供がいないので、「あの娘の妹をくれ」という話になって、今日、家から連れて行ったらしいよ。
裏で、酒飲みのお父さんは、兄弟からお金をもらっていたことを酒の席で「娘を二人産んでおいてよかった」と自慢していたと、父さんからさっき、聞いて驚いたのさ。
かわいそうだけど、何もしてあげられないねえ。
あんたも、できるだけその娘さんを支えてあげなさいね!
あー、本当に貧乏はやだねえ。」
親は親で、子供を育てるって大変なんだなあって、子供心に思いました。
お母さん、お父さん、養子に出さずに最後まで育ててくれて、本当にありがとうございます。
※これは昭和40年代の貧乏な家庭では、”普通の出来事”なのだと覚えておいて下さい。そして今も、日本以外の貧乏なアジア圏では、日常のことなのです。
アジアの人たちが豊かな日本を目指している意味と、この日本国に生まれた「役割」を正しく学んで世の中に恩返しできる人間になって下さることを祈っています。