母の教え:父さんは怒ったら怖いんだよ!
「父さんは怒ったら怖いんだよ!」
この言葉を言われたことがある人は、多いと思います。
実際に、いつも怒っているお父さんや、奥さんや子供達を殴る蹴るお父さんもいますので、そういう人は特別な人として横へ置いといて・・・
今日は、子供の頃の大切なことをお話しします。どの子供達も感じている純粋な心のお話しです。
私は物心が付いた時から人の心の中が丸々わかってしまう子供でしたが、そのことを親にも誰にも言ったことはありませんでした。
一度だけ、母が私に嘘をついて誤魔化しているとわかった瞬間に、「なんで、嘘を言うのかな?」と呟いたら、ものすごい形相で平手打で叩かれたので、「もう二度と、本当のことは言わない」と決めたからです。
道向かいのおばさんは、とても優しくていつも声をかけてくれますが、このおばさんの心の中を見ると、真っ白で透き通っていたので一番、安心できる大人でした。
フラッとよく遊びにくるオジさんはいつもニコニコしていますが、何度か、心の中が真っ黒の時がありました。
その時のおじさんは、昼間からお酒臭いし、何かを誤魔化しているのはすぐにわかりましたが、幼稚園児がそれ以上、言える言葉はありません。
幼稚園の園長さんは、普段はとても優しい人ですが、子供達が喧嘩をしたり、嘘をつくと本気で怒りますが、心の中は透明なので、あー、この人は本気で子供達のことを思って怒っているとわかったので安心しました。
毎日、牛乳を運んでくれるおじいさんも、「おはようございます!」と挨拶すると、幼稚園児の私に「おはようございます」と言って、菩薩様のような笑顔をしてくれますが、ある日、心の中に何か悩みがあるような白いモヤモヤした煙が見えました。
あとで、母から、「牛乳配達のおじいさんは、今、息子に来た嫁がひどい人みたいで、あの人を怒鳴りつけるから大変なんだよ。」と教えてくれました。
子供ながらに、どうして大人が大人をいじめるのかわかりませんでした。
田舎の道を歩いていると、通りすがりの大人たちが、必ず、声をかけてくれます。
田舎の子供たちは、どこの家の何番目の子供かもみんな知っていますし、他の家の中の揉め事から嫁姑問題から親の相続問題まで全て筒抜けなんです。
それが田舎の特徴だからこそ、自分の子供と町内の子供は同等に怒られます。
そういう大人たちに守られて過ごした子供の頃、いつも声をかけてくれる腰の曲がったおじいさんが無言で横を通り過ぎたので、「おじいさん、大丈夫?」と聞いてみると、「あー、吉岡さんとこの子供かい。すまん、すまん、挨拶せんかったな。」と頭を下げてくれましたが、心の中は真っ黒でした。
そして、怖いくらいにこのおじいさんの体全体が黒っぽいので死が近いこともわかりました。
でも誰にも言えません・・・
そんな子供時代でした。
たくさんの大人たちの心の苦しみや悩みを色で見えていたうえに、その人がいつ、どんな状況で死ぬのかも映像で見えてしまったので、とても苦しい時間でした。
そんな時、いつものように父が農作業の仕事を終えて、テレビの前に座り、日本酒を1杯、嬉しそうに飲んでいえる姿を後ろから父の心を見ましたが、心の中はいつもまっ透明で何もありません。
そんな父を見ているだけで私は癒されましたが、なぜか、母はいつも父を叱ります。
のんびり屋の父は行動を起こすのが遅いうえに、昼寝をすると、なかなか起きないので、農繁期の忙しい時の母は頭から湯気が出るほど父を怒って働かせていました。
でもその二人のおかげで、家の中にお風呂も付いたし、テレビもやって来ました。
中学生になると、冷蔵庫というもの白い箱が入り、中がなぜか、冬みたいにいつも冷たいので驚きました。
秋の農作業が終わると、父は出稼ぎに出て、半年間、戻って来ません。
父が居ないと、つい、調子こいて悪戯をしますが、母は決まってこう言います。
「父さんは、怒ったら怖いんだからね!今度、正月に帰ってきたら、まとめて怒ってもらうからね!」
でも、私は知っています。
私の父は菩薩様なので、決して、感情的になって怒ることはありません。
だからこそ、うるさく厳しく私を育ててくれた母には、心から感謝しています。
天に召された菩薩様の父には、感謝しかありません。
母の精一杯の嘘が、「父さんは、怒ったら怖いんだよ!」でしたが、その時の母の心の中は真っ白で嘘がありませんので、私は本当にありがたい両親に育てられたと感謝しています。
いつも、ありがとうございます。