命のローソク 12 住職の覚悟
私の家の田んぼの手伝いをした住職は、翌日の「説法」の時間に「町内の皆さんに、ぜひ、伝えたい話があるのでお集まり下さい」と町内の有線放送で伝えました。
両親と一緒に参加すると、本堂を背にして、住職の家族全員を座らせて、町内のみなさんの前で、こう話し始めました。
・・・・・・・・・・・・・・・
昨日まで私たち家族は、皆さんが支えてくれていることに甘えすぎていたことに気づきました。
だから、今日限り、このお寺に「寄付」や、「つけ届け」は一切、いりません。
子供たちにも自分達でアルバイトしてお金を稼がせますし、私もどれくらい貧乏に耐えられるか、みなさんの気持ちにそう生き方ができるよう、今日から「修行」します。
なので、どうか、みなさん、私のお寺に「つけ届け」はもうおやめください。
今日限り、全てのいただいたものはお返しします!!
と家族全員に頭を下げさせて、檀家さん全員の前で宣言をしました。
・・・・・・・・・・・
そこからが大変で、言い出したら聞かない住職の思いを受け止めながらも、お寺の改修費や積立金など町内会長たちは、役員たちとどうするかの話しあいが始まりました。
女子供はこういう時に発言できないのが普通ですが、すっくと、立ち上がった私の母は、真っ直ぐ住職の目を見てこう言いました。
「住職、あなたは自分勝手すぎます!
昨日まで農家が作ったものを有難いと食べてくれたのに、急に、今日から持ってくるな!とは、どういう了見で話しているのですか?!!!
私たち農家は、自分達が死ぬ最後のお経をあなたにあげてもらいたいくて、自分で手をかけて野菜やお米を作ってお寺に持ってきています。
その気持ちを「まる無視」するような発言は、農家の思いをバカにしているのと同じです!
あなたは昨日、我が家の田んぼで田植えをしていた時に、お経を唱えていましたが、あなたが植えた稲たちは、これから大きくなって成長する生きた植物なのに、なんで、あなたは死んだ人を送る「お経」をお米に唱えるのか、悔しくて、今朝、あなたが植えた稲を引っこ抜いて、全部、私が植え直しました。
そこまであなたが、人の気持ちがわからない人間だとは思っていなかったので、私は今、腹が立って収まりません。
あなたの言い分もわかりますが、どうか、あなたやあなたの家族を支えようとしている農家たちの気持ちも組んでお答え下さい!!!
ビシッと一礼!
・・・・・・・・・・・・・・
母さん、それはすまんかったなあ。
そういう風に取られたのか・・・。
俺は本当に足りない奴だなあ・・・。
言い訳するつもりはないんだけど、昨日、あんたの田んぼで唱えたお経は、「命が永遠に続きますように」という、得度の高いお経なんだ。
でも、あなたたちが作ってくれた田んぼに入って、ワシが邪魔した形になったのなら、心からお詫びをします。
どうか、許して下さい。
住職は、その場で土下座をしようとしましたが・・・。
私の父が走っていって、住職の体を支えて、土下座ができないようにしました。
「住職、何をやっているのですか!!!
あなたは私たちができない修行をたくさんして得度を積み、その力で私たちのご先祖の祈りをしてくれているはずです。
そんな人に土下座されたら、ここにいる全員が腹を切らねばいけなくなります。
住職!!本当に、俺たち全員に腹を切らせたいのですか?
私の家は武士だし、あなたのご実家も武士だと聞いていたので、この気持ちはわかるはずです。
だからどうか、この場は引いて、「私たちの命」を救って下さい。
そして、どうか、少しばかりの農家の野菜やお米を食べて下さい。
農家は、食べてくれる人がいることが、食べ物を作る喜びなのです。
食べてくれる人が、いなくなった母親たちの嘆きを知っていますか?
せっかく、作っても食べてくれる息子たちも父さんも居なくなった後家さんたちは、あなたたち家族に野菜を持っていくことが楽しみになっているんですよ!
その楽しみを奪うんですか!!!
もう、やめましょう。こんなくだらない言い合いは!
私は今までと同じように、あなたの家族を支えますし、このお寺の修繕費も少しのお金を出す予定でいます。
ここにいるみんなも同じ気持ちだと思うので、うちの母ちゃんの「早とちり」を許して頂き、また、みんなで一緒に美味しい食事を食べて酒を飲みましょう!
どうか、住職!!!
ここにいる「農家全員」の気持ちを代表して言っているので、さっきの言葉を取り消して下さい!よろしくお願いします!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おう!吉岡の!!
「農家」ばかりが、この町内の住人じゃないぞ!
俺の家は、「左官」だが、給料の一部をお寺に寄付できることは、ご先祖を含めて喜んで寄付しているんだぞ!
金儲けばかりしている社長たちは大した金額を出さないので、いつも、修繕費のことで揉めるが、結局、お寺を支えたいかどうかは、一人一人の心だろ!!
食べ物作る農家だけ、威張るじゃない!!!
俺は、「左官職人」を代表してこの寺を支えるぞ!!
・・・・・・・・・・・・・・
おう!俺は、「大工」だ!!!
俺も「大工職人」を代表して、この寺を支えると宣言するぞ!!!
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
なんで男たちって、こういう時に熱くなるのかねえ〜。
でも私も、黙ってはいられないわ!
私も「パーマ屋」を代表して、ここにいるのさ。
だから、芦別市の全部のパーマ屋に声をかけて、このお寺を守るから、住職、あんまり勝手なことを言いなさな!!(^^)
さあ、ここには水商売の女たちもいるし、学校の先生たちもいるけど、みんな同じ気持ちだと思うよ!
あんたの「説法」は、日本全国、どこへ行っても聞けない「徳のある話」だと坊主たちも噂してるし、住職は本当に芦別を代表する住職だと、他の町のお寺さんが言っていたんだよ!
もっと大きい町のお寺さんも、芦別市常磐町の住職の名前は知られているからこそ、「芦別に住んでいる人はいいな」と言われているんだよ!!
今日も、ほら、町内の人間じゃない人たちが、たくさんあんたの話を聞きたくて来てるのに、何を言い出すかと思えば、「お布施」はいらないだと!!
私たち「貧乏人」をバカにしているのかい?
あんたはそういう人じゃないと思うから言うけど、頼むから今まで通りでやってちょうだいよ!
私だって、大した稼ぎはないけど、あんたの話を聞くと、自分の足りなさが気づくのと同時に、まだ、もっと頑張れと言われてる気になるので、こうやって、仕事を休みにしてここに来てるんだよ!
だから、住職!あなたの気持ちはわかったけど、庶民の気持ちも汲んでやって、今まで通りにしなさい!
あなたの子供たちは、確かに甘やかしすぎだから、全員、私の美容室でアルバイトさせてやるよ!厳しいからね、私の指導は!!(^^)
・・・・・・・・・・・・・・・
という事件が、昔、起きました。
僕は、住職から、自分の腹を切って死ぬ前に、色んな話を聞いていました。
「坊主」になるのは、足りない人間のすることだと住職も言っていましたが、世の中にいる人も同じ「足りない人間」なので、どちらを選ぶかはあなた次第だと思います。
こんな幼稚園生の言葉を聞いて、どうするかは、あなた次第ですが、私に禅問答ではなく、二重問答をかけたので、こんなに長い話になってしまいました。
どうですか?あなたの答えは?
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
頭の良い坊さんは、前に大きく倒れて大声で泣き出して、止まりませんでした。
俺が悪い、俺が足りない、俺が情けない・・・
母に申し訳ない・・・
父にも申し訳ない・・・
妻にも申し訳ない・・・
俺はどうしたらいいんだ・・・・。
今の言葉を聞いて、私はわかりました。
あなたは、もう少しだけ奥様と話して「坊主」を続けなさい。
そのほうがいいと思います。
ただし、坊主の修行の期限を決めて、終わったらすぐにどこかの会社へ就職しなさい。
そこで、人間として、喜ばれる修行をしながら、子供たちを育ててて下さい。
私も今、父母に育ててもらっていますが、それも18歳までだと思っています。
そのあとは、世の中へ出て「修行」します。
世の中の修行に終わりは無いので、自分が足りない点を気づいて、日々、努力していけば、いつか、必ず、実になる時が来ると思って、私は今、田んぼのお手伝いをしています。
どうか、希望を持って、坊主をやりながら、迷っている他の若坊主たちを導いてあげて下さい。
私がお答えできることは以上です!
・・・・・・・・・・・・・・・・・
後ろを振り返ると、若い修行僧の坊主たちも、全員、泣いていました。
何のことを言われているのかわからない派手な袈裟を着た「バカ坊主」だけは、ポカンと口を開けていたので、
「早く、あのバカ坊主を連れて、帰って下さい。
僕は、今日のこの時間のおかげで、とても亡くなっ住職を近くに感じています。
だからもう少し、ここにいて、住職と対話するので、みなさんはお帰り下さい。」
賢い坊主が、バカ坊主を連れて裏へ行き、若い修行僧たちに芦別市内へ車で送るよう指示を出したあと、一人で、そっと私の後ろに座っていました。
お寺の奥さんも、私の母も、私を心配して見に来ましたが、私が「住職の魂」と話しているのを感じたのか、すぐにいなくなりました。
「晩御飯できているからね・・・」と小さい声で、後ろの賢い坊主に言いましたが、十分、聞こえていました。
そんなことより、今日のお前の対応は見事だったと住職が誉めてくれたし、最後のお前が言った言葉に、ワシも感心したので、これからこっちの世界で愚かな魂たちに修行をさせようかと思っていると教えて下さいました。
それにしても、あのバカ坊主、やっぱり、一人でお経も唱えられないし、人の気持ちを理解できる心がない奴だとよくわかったぞと、住職が大笑いしたので、私も一人で大笑いしてしまいました。
一人でお寺の本堂で笑っている自分は、きっと、周りの人から見ると、頭が変な子供に見えたと思います。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後ろで静かに心を合わせていた賢い坊主が近づいてきたので、住職との話の内容を全部教えましたが、「本当なんですか?」とあまりにリアル内容だったので、すぐには信じてくれませんでした。
じゃあ、今、住職の魂とつながっているので、あなたが聞きたいことを言ってくれれば、私が代わりに聞きますよ、と言うと、「今の自分に必要なことを教えて下さい」と言いました。
・・・・・・・・・・・・・・
目の前にいた住職は、空の上で正座し直し、こちらに向かってこう言いました。
お前はまだ若いし、賢いが、その賢さの使い方を間違うなよ!
賢さを間違うと、「ずる賢い人間」になってしまい、人を騙しても嘘をついても平気になってしまうもんだ。
こいつ(マナブ)のように、真っ直ぐに生きるのはもっとも辛いんだが、こいつは、「嘘を絶対につけない人間」なので、どんなに嫌がらせされても、どんなに周りの人間に否定されても、自分に嘘をついて生きることはしないので、きっと、苦しい人生になると思うが、お前は、そこまで強くないので、自分に嘘をつかせないように努力しなさい。
お前たちが生きている世の中は、「正直者がバカをみる」こともあるが、こちらから見れば、すぐに誰が嘘をつき、誤魔化しているかはわかるんだ。
だから、自分の先祖に恥じないように、自分が大切にしている人のご先祖にも、恥じない生き方をしなさい。
坊主を続けてもやめても、お前の悩みは何も変わらんと思うぞ!
大事なことは、自分が「生きている時間の意味」を、どういう意味にするかだけだ!
自分がやることに、悩むんじゃない!
自分がやったことで失敗しても反省なぞ、するんじゃないぞ!
必ず、いつも、前に進むためにどうしたら良いかだけを考えなさい。
それが、人生なのだ。
ワシも死ぬまで苦しんでいたが、こうやって死んでみると、いかに、自分勝手な考えで生きていたかを気付かされたぞ!
だってな、俺たちは「坊主」だろう!
こいつ(マナブ)は、ただの「農家の次男坊」だぞ!
こいつが、これから大きくなって、どれくらい苦しむのかは、常人が考える余地がないくらい「辛い人生」になると思うが、こいつは死にたくても死ねないくらい強い守護存在たちがたくさん守っているので、俺もこっちへ来て驚いたほどだ。
「自分で死ねない人間」なぞ、いるわけないと思っていたが、俺はコイツに会って、自分が本当にバカだったと気付かされたもんじゃ。
だからな、若いの・・・。
死ぬほど、真剣に生きてみろ!
そして、もし迷ったら、このマナブのところへ来て、今、何を悩んでいるかを聞いてみろ!
コイツ(マナブ)の魂は、生まれた時から「自分のためには生きれない」ようになっているので、俺はコイツみたいな人生でなくて、本当に良かったと思ったほどだ。
コイツ(マナブ)が、今後どうなるかはワシも楽しみだが、お前の人生はしっかり見ているので、迷った時には、お経をあげなさい。
それがワシに通じる方法なので、いつでもお前の心を通して、応えてやるぞ!
じゃあ、頑張れよ!!
・・・・・・・・・・・
住職の魂の思いを私が代わりに声にして伝えましたが、賢い坊主は私の手を取り頭を深々下げて泣いたので、こう伝えました。
一緒に、我が家でご飯を食べて下さい。
そして、「一宿一飯」の恩義を受けて下さい。
そして、いつか、その「恩返し」ができる人間になった時は、私を探してここにきて下さい。
私は、18歳までは、ここにいます。
また、お会いできる日を楽しみしています。
そう言ったあと、家に連れて行き、私がお風呂の火を焚べて、お風呂に入ってもらい、食事を食べてもらって休んで頂きました。
この修行僧も、私が高校生の頃に家を訪れて家にきましたが、私に質問した瞬間に、私は「甘い!ダラダラ生きないで、死ぬほど真剣に生きなさい!」と怒って、そのまま帰しました。
「ツッパリリーゼントの学級委員長」に、甘い質問をするほうが悪いのです。
ここまで思い出した住職との時間や関わった人たちとの対話は、私は時間を遡って「過去に起きた時のまま」を皆さんにお伝えしています。
西暦2000年に解脱した時、42年間の「全ての過去の記憶」を失い、新しい人生が始まりましたが、それはそれでとても辛い時間でした。
この続きは、次回お話しします。