おばあちゃんに聞いたじいちゃんの話し
腰が曲がっていて、いつも片足のじいちゃんのお世話をしている「ばあちゃん」から、じいちゃんがいない時に聞いた話がありますのでご紹介します。
普段は、ばあちゃんが見えないと「おい、どこにいる!俺の目の前にいつもいろ!」と叫ぶじいちゃんですが、「今日は、ばあちゃんから話を聞きたいのでいいですか?」と聞くと、俺は田んぼを見回ってくると言って、出かけてくれたのです。
ばあちゃんから直接、話しを聞きたかったことは、どうして、じいちゃんと結婚したかです。
頭を良いし、器量も良いし、体も180cm近くあるじいちゃんは、当然、モテたと思うのに、どうして、二人が結婚したのか分からなかったからです。
私は、親の言う通りに結婚しただけさ。
じいちゃんは、お兄さんがいたので、全てのことはお兄さんが決めるので、自分にはすることが無いといつも言っていたらしいんだ。
体が大きいし頭も良いからすぐに「戦争の赤紙」が来たけど、じいちゃんは新聞やテレビのニュースをしっかり見て、「この戦争は、いずれ負ける」とわかっていたそうなんだ。
でも、お兄さんも戦争にいったので、代わりに家の仕事を支えていたけど、「赤紙」が来たら行かないなんて言えないからね。
近所の息子たちも、たくさん戦死してるからね。
覚悟して戦争にいったら、鉄砲の練習中に他の人の流れ玉が足に当たったんだと。
戦争の現場では、まともな医療がなかったので、お酒を一滴も飲めないじいちゃんに焼酎を一瓶飲ませて、紐で戸板にグルグル巻きにされて、ノコギリで足を切られたそうなんだ。
痛いってもんじゃないから失神したそうだけど、切ったあとが痛くて痛くて、今も、毎日、寝る前に「足をもめ!」と言われて眠るまで揉んでいるんだ。
片足になったじいちゃんは、簿記や会計はできるし、傷痍軍人だから恩給が出るので、近所の女たちはみんな嫁に行きたいと言ったそうだけど、じいちゃんが私を選んだそうなんだ。
私はこんなに体も小さいし、おっぱいもないし、なんで、私を選んだのか、結婚したあとに聞いたのさ。
そしたらね、私の家は、女姉妹ばかり3人なので、上から順番に嫁ぎ先を親が探してくれたけど、なかなか見つからないので、じいちゃんに頼みにきたんだって。
誰か、良い家の男はいないかと。
そこで、私の家の3人の写真を見て説明を聞いた時に、じいちゃんが、私に決めたんだって。
なんで、私なんかを嫁にしたのって聞くと・・・。
お前は一番体が小さくて、一番最後まで男が当たる順番が遅いので、適齢期を超えてしまうし、お前みたいな小さい体が弱そうな女を嫁にする奴はいないと思ったんだ。
だから、俺がもらってやったんだ。
俺の両親にも反対されたけど、お金はあるので、絶対に、親に迷惑をかけないと言って、お前を嫁にもらったんだ。
それとお前の家はとても貧乏だったので、俺からお金を先に父さんにあげたけど、何か買ってもらったか?
とんでもない、私のお父さんは他人の金でも盗んでお酒を飲むほど酒好きなので、きっと、あなたがあげたお金も飲んだと思いますよ。
そうだと思ったが、やっぱりか・・・。
そう言って、じいちゃんは、私に初めて、プレゼントをくれたのさ。
お前の親父は娘の結婚式に何も持たせないとわかっていたから、俺からこれを結婚祝いとしてプレゼントする!受け取れ!
と、「プラスチックのカンザシ」を頂いたのさ。
もう、私は親にも、姉妹にも、プレゼントなんでもらったことがないから嬉しくて、ずっと大切にしまっていたのさ。
そしたらね、結婚式とか葬式とかに、付けてでろ!と怒るのさ。
怒らなくても良いのに・・・(^^)
じいちゃんは本当に優しい人だけど、絶対に人の前で弱音は出さない人なんだ。
片足がないだけで白目で見られるし、私の娘、そう、お前の母さんも何度も学校でいじめられて泣いて帰ってくると、じいちゃんに張り飛ばされてたよ!
俺の足のせいで、なんで、お前が泣くのか!
言いたい奴には、言わせておけ!
そんなことを気にしているほど暇なら、学校なんか行かなくていいぞ!
明日から田んぼで働け!って怒られてさ、あんたの母さん、毎日、泣きっぱなしだったんだよ。
じいちゃんと一緒に頭が良い母さんだから、ちゃんと勉強したら良いところにいけたと思うけど、じいちゃんは、「女に学(ガク)なんか、いらない!」って言うんだ。
でもね、お前の名前の学(まなぶ)は、じいちゃんが付けたんだよ!
え!そうなの?
そうさ、きっとね、じいちゃんは自分の娘に勉強させられなかったことを後悔して、「お前の名前に希望を持って育てろ!」って意味で、「学(まなぶ)」って付けたとあとで教えてくれたのさ。
本当は優しいじいちゃんだから、時々、怒るけど気にしないでね!
この話を聞いたあと、戦争で足を失った時の話を直接、じいちゃんから聞きました。
それと一緒に、ばあちゃんから教わったことも聞きましたが、その時のじいちゃんの目は、
「この!婆さんは余計なことを言って!」と怒っていましたが、目が嬉しそうでした。
中学2年になった時、自分より先に死ぬのは、じいちゃんやばあちゃんだと思ったので、ひとつでも自分が知らないことを教えてもらおうと思って、毎週のように通っていた時の話でした。
どうか、皆さんも、ご実家にいるおじいちゃんやおばあちゃんに会いにいってあげて下さい。
自分の親たちは、親のことを一面でしか見れないからこそ、孫は、「親が見えない一面」を見るためにいるのですから、自分一人で話を聞きにいって下さい。
歴史の教科書を読むより、その時代に生きた人の生の言葉が一番、心に残るものなのです。
どうぞ、よろしくお願いします。