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戦争仕込みの往復ビンタ 5 祖父の戦争体験 

家族と話しを全くしないまま、中学2年生になったある日、母が私に、「自分の子供の頃の体験談」を教えてくれました。

私は子供の頃からこんな性格なので、自分がわからないことは、まず、先生に聞いてみて、それでもわからない時は、手当たり次第に周りの大人たちに聞いてまわったのさ。

でもね、私が「本当に知りたいこと」は、どんな偉い人でも教えてくれないのさ。

途中までの綺麗な話しはしてくれるけど、本当に悩んでる自分が嫌なので、「怒られてもいいから正直に教えて下さい!」とお願いしているのに、誰も、本音で、本気で話してくれた大人は、いなかったのさ。

結局ね、私が困った時、最後に聞きに行ったのは、「あんたのじいちゃん」だけなのさ。

私の父親でもあるけれど、あの人は人間としても周りの大人たちに尊敬されるほど、いつも素直で正直に、「自分の体験を添えて他人に話してくれる人」なので、私は隣の部屋でいつもその話を聞くたびに、とても勉強になったのさ。

ある日、私が隣の部屋で勉強している時に、お客様が来て、じいちゃんにいろんなことを質問していたけど、最後にじいちゃが怒り出して、急に、大声でこう言ったのさ。

お前、もう、ここに二度と、来るな!

もう、お前に教えることなぞ、ないぞ!

お前みたいに、人が教えている時に、最後まで人の話しを聞かないで、「途中で言葉を噛んで話す人間」は、一生のその癖は治らないので、今、俺が話した言葉の半分もわかってはおらん!

お前がいつも、どうして、同じようなことで悩むのかを考えたことはあるか?

ないのか?バカもん!

本当にお前は、バカがつく上に、もうひとつ「バカの神様」が付くくらいバカな人間だな。

お前みたいにバカな男が見つける女も同じバカだから、お前が女房の悪口を言うだけで、ワシは腹が立って気が治まらん。

いいか、人間は、自分に見合った人にしか出会わないんだぞ!

お前はいつも「自分を正当化」して話すが、ここにお前の嫁を連れてきたら、きっと、お前の100倍、文句を言うことだろう。

そして、お前たち二人は、ワシがいることを忘れて、ここで喧嘩し合うに決まっている。

だから、「本当のバカ」だと言っているんだ。

いいか、今、自分の目の前にいる人が、自分にとって最も「大切な人」だと思って付き合いなさい。

それができない人間が、いくら相手を変えてみても、結果はいつも同じに決まっている。

なぜかというと、この世の中の仕組みは、

「自分が言った言葉ややったことが、回り回って自分に返ってくる仕組みになっている」からなのじゃ。

ご先祖様はいつも見ているし、神社の神様は何も言わず、その人が足りないことを気づくためのことを示してくれるもんなのじゃ!

だから、ワシはご先祖様にも神社の神様にも、「お願い」なんて、したことはないぞ!

お前たちバカ者は、きっと、神社に行けば「お願い」、先祖の墓や仏壇の前に行けば、また、「お願い」する馬鹿者に決まっている。

いいか、神社の神様も、お墓や仏壇に祀られているご先祖も、そこにはいないんだぞ!

俺も戦争へ行って、毎日、人が死ぬのを見ていたが、こんなに毎日、人が死んでいく現実の中、先祖や神様が手を貸すわけがないだろう。

敵も味方も、考えることは同じで、ただ「生き残りたい」だけなのさ。

そんな願いも聞いてもらえず、1日に100名とか、1000名とか毎日、人が死ぬ中で生きている人間が、何を願うがわかるか?!

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

何も、願わんのさ・・・。

ただ、1日が終わった時に、

今日も生きていた・・・。

今日もまた、生かされた・・・。

でも、俺が生きるために、今日、何人の人が死んだんだろうと考えると居ても立っても居られないので、俺は毎日、上官のところへ行って、「今日、戦死した人数」を聞いたのさ。

なぜ、そんな人数を知りたいのかと上官が聞くので、俺はこう答えたさ。

 

今、俺の兵舎の仲間たちは、少しだけの晩飯を食って、俺の兵舎で休んでいますが、みんな明日は「自分が死ぬんじゃないか?」と、朝まで涙を流し続けています。

そんな兵舎の中にいると、気が狂ってしまう奴もいるので、みんなで取り押さえて、殴り倒して、眠らせます。

でも、そんな毎日を過ごしていると、こんな時こそ「希望」が必要だと思ったので、俺は自分でハンカチを三角に折って、ベットの頭のところに置いて、それを「仏壇の代わり」だと思って毎日、手を合わせています。

俺が願うことは自分が生き残りたいんじゃなくて、「今、コイツらの苦しみを少しでも軽くしてあげて下さい」と毎日、願っています。

兵長、これはやってはいけないことでしょうか!?

この戦争は、日本が勝つために、天皇様や自分の家族を守るために自分達は戦っていますが、みんな今、何のためにこれだけ多くの人間が死んでいくのかを悩んでいます。

だから、本当は「天皇様」を拝めばいいと思うんですが、天皇様を拝んでも、心が休まらないんです。

誰もが、布団をかぶって、「お母さん、ごめんなさい。お父さん、ごめんなさい。おじいちゃん、おばあちゃん、ごめんなさい」としか言えないので、苦しいんです。

だから俺は、自分がハンカチで三角に作った「仏壇」で、毎日、こう拝んでいます。

どうか、少しでも、コイツらの気持ちが安らかになって、故郷を思い出して心が休まる時間を与えて下さいと・・・。

もし、俺のしていることが間違っていたら教えて下さい!!!兵長!!!

ビンタでも何でも受けますので、どうか、兵舎にいる奴らの苦しみを少しでも軽くさせてあげて下さい!お願いします!!!

そう言うと、目の前にいた兵長も泣き出して、俺にまず、一発ビンタをしたあと、こう言ったんだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

貴様!、「天皇様」の名前を軽々しく口にするもんじゃない!

だから、いまのビンタは、お前の足りなさを気づかせるためのビンタだ。

ありがたく、もらっておけ!

そして、これからもう一発、ビンタをするが、これは、俺の「ありがとう」の気持ちのビンタだ。

俺は昔から口でうまく言えない人間だから、本当に大好きな友達や兄弟姉妹にも、ビンタをする。

それしか俺には相手に対する愛情の伝え方がわからんのさ。

なあ、岩渕!俺はお前が大好きだ!!!

お前のためなら俺はいつでも、敵の弾に当たって死んでやる!

それは、俺ができないことをお前がやってくれているからだ!

俺だって、お前の兵舎にいる奴らの鳴き声は毎晩、聞こえている。

俺も辛くて泣きたいが、俺の親父は、「男はどんなことがあっても、人前で泣くな!」と教わってきたので、今も、必死に涙を堪えている。

※実際は、涙を流していたそうです・・・

本当はお前の前で、大声で泣きたいし、お前に抱きついて、今、生きていることを感じ合いたい!

でも、俺はお前の上官だから、そんなことは、できん!

だから、俺がお前に伝えられる唯一の方法が、「ビンタ」なんだ。

だから、今からする「愛情のビンタ」を一発、受けてくれ!

そして、俺が殴ったあと、お前が俺にもビンタを一発くれ!

それで、「おあいこ」だ。

俺は兄弟姉妹といつもこうやって問題を解決してきたので、他の方法はわからん馬鹿者なんだ。

だから、お前が兵舎で何をやっても、俺は文句は言わん!

お前の好きなように、兵舎の奴らの悲しみを解放してやってくれ!頼む!!!

この続きは、明日です。

 

 

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