【労働組合】はじめ組の組長の出会い 2
1ヶ月後、楽しみにして、「はじめ組」のスナックに行ってみました。
あの「小太りバカ女」は、今日は出勤していないのか、いつもの女の子しかいないし、新人みたいに「見たこともない女の子」の顔が見えました。
あのあと、店の従業員が努力して売り上げが上がり、新しい女の子を入れたのかと勝手に思い、あの子は実家に帰ったのか、船で本州へ行ったのかを考えていました。
そこに一人の女の子が、満面の笑みでやってきました。
よ!し!お!か!さーん!
いらっしゃいまっせー!
なんだよ、誰だよ?お前?
何で「初めての客」の名前を呼ぶんだよ!
こういう店に来る客は、自分の素性がバレるのを恐れる人もいるので、本名と会社の名前は口にしてはいけないと、ママさんに教わらなかったのか?
おい!ママさん、新人教育をもっときちんとしてよ!
俺が恥をかくので、頼みまーす!
なあに、どういうこと???
私のこと、わからないの???
ガッカリだなあ、喜んでもらえると思ったのに・・・。
ちなみに私、ススキノには10年いますので、ベテランなんですよ!
おい!おい!おい!
ススキノに10年いて、それかよ!
お前、バカか!!!
もっと、人を見て、所作を学べよ!
「他人(ひと)の振り見て、我が振り直せ!」って、言葉を知らんのか!!!
馴れ馴れしい女は、俺は大嫌いだから、お前、下がってろ!さあ、下がれ!!!
ショボンとして、厨房に戻った女の子の「次の子」を楽しみにしていると、ママさんがやってきました。
吉岡さん、わかりませんでしたか?
あれは、あの娘ですよ!
ほら、吉岡さんにガッチリ怒られた「あの娘」!
彼女、頑張ったんだから、褒めてあげて下さいね。
うっそだあ、ママさん、それは嘘でしょ!
あんな「ブスチビ女」が、あんな可愛い子に化けるわけないでしょ!
あれは、どう見ても別人ですよ!
もう、そうやって僕を騙そうとしているんですね!
まあ、「最初のゲーム」としては楽しいけど、次は、あの可愛い娘を呼んで下さい。
今日は、あの娘とゆっくり飲みたいのでお願いします!
二人目の可愛い女の子がやってきて、横に座り、ボトルを開けてグラスをついでくれました。
あのう、私の「ヘルプ」をもう一人、呼んでもいいですか?
彼女の勉強のために、横に座らせてあげて下さい。
今、あの子は頑張っているので、お勉強させてあげたいんです。
彼女の飲み代は、私が持ちますので気にしないで下さい。よろしいでしょうか?横に呼んでも・・・。
もうこんなにスムーズな会話で話されると、YESとしか言えないでしょ。
いいよ、呼んで横に座らせてあげて!
ヘルプお願いしまーす!〇〇さん、ご指名です!
自分のグラスと、新しい氷と水を持ってやってきたのは、最初にやってきた女の子でした。
あれ?お前、さっき、会っただろう。
もう「最初のゲーム」は終わったのに、また「次のゲーム」をするのか?
俺、「仕事に不慣れな人間」は嫌いなんだよなあ・・・。
客から高い金を取ってよう、それで仕事が不慣れなら、うちの店の従業員の女の子にお酌してもらったほうが、ずっと楽しいぜ!
会話ひとつ、所作ひとつ、服装ひとつ、メークひとつ、そして、スカートの丈も、「お前たちの仕事」だろ!
俺は、そういう「プロの仕事」をしている人間には気持ちよく金を払うけど、相手の気持ちを汲み取れない人間は、大嫌いなんだ!
「二度目のチャンス」でやってきたのなら、きちんと自分の名前を名乗ってから、さっきのことを謝って、横に座りなさい!
そんなオドオドしていたら、ちゃんとした仕事もできないだろ!
もっと、背筋を伸ばして気を立てて、「本気の女」を見せてみろ!
そうすれば、どんなブスでも少しは綺麗に見えるし、あとは、言葉使いだなあ・・・。
できるか、おい!10年選手の新人さん!!
彼女は、お盆に乗せた氷と水とグラスの手が震え出して、堪えていた感情が溢れ出しました。
隣に座っていた「NO1」の女の子が、サッと、彼女のお盆を支え降ろして、こう言いました。
〇〇ちゃん、正直に言いなさい。
まだ、吉岡さん、気づいてないから・・・。
全身が震えてるし、オシッコをちびりそうな感じに見えたので、漏らしたら困るので、手を下から当てようとすると・・・、
吉岡さん!わかんないんですか!!
私です!あの、船に乗せるか乗せないかを決める対象の女ですよ!思い出しましたか?
いやあ、だから、今日はその「判定」に来たのに、あの子がいないので、田舎に返って豚を飼っているのか、本州に「船」で送られたのかと思っていたんだが、お前、新人のくせに、なんでそんなことを知っているんだ?
人の命がかかっている問題なのに、おかしいだろ!
ママが教えたのか?
じゃあ、俺がママに怒っておくわ!
俺はあの子の人生を決める役目だから、今日は、「線香」とお祝いの「お土産」を買って来て、「結果」を見てから渡すものを決めとうと思っていたんだ。
だからよ、もう、お前はいいから、あの子を呼んできてくれないか?
それとも、もう、「船」で送られて、いないのか?
吉岡さん!私ですって!!!
わかって下さい!!!!
こんなに変わった自分にも驚きましたが、人間、努力すればできないことはないとわかりました!
今日来るのか、明日来るのか、わからなかったし、抜き打ちでくるかもしれないと思って、休みを取らず、毎日、出勤していたんですよ!
やっと、あなたに会えたので、お礼を言いたいのに、最初っから怒られてばかりなので、私、自信を無くしそうです。
やっと、「船の期限」が伸びたのに、また、太ちゃいそうです。
だから、お願いだから私を褒めて下さい!
私、あなたに褒められたくて、その言葉だけを聞きたくて、ここまで毎日、頑張って来たんです。
もし、一時的にでも痩せて、あなたに合格点が出たら、私、自分の意思で「船」に乗ろうと思っていたんです。
だって、人様に気を使えないのは今も同じだし、だから、自分のプライドを折るために、ママさんに頼んで、私を「新人扱い」にしてもらったんです。
お給料も最低でいいし、どんな汚い仕事もやりますとお願いして、今も、ここに居させてもらっています。
まだまだ、私が足りないことは、先ほどの言葉でわかりましたが、もし、吉岡さんお許しが出るなら、私、もう少し、ここで生きたいんです!
私もここまでの人生で、楽しみなんて一度もなかったけど、あなたに会えて、褒めてもらうために頑張ることで、自分に自信がついて来ました。
本気で怒って下さって、ありがとうございます!!
冷たい氷水を全身にぶっかけてくれて、ありがとうございます。あのおかげで頭が冷えました。
だから、全てのことを「1から始めよう」と決断できたんです。
そうしたら、ススキノ中のママさんたちが、私のことを応援してくれて、アメリカのすごい痩せる薬とか、食事の仕方とか、お風呂の入り方も教えてくれたんです。
毎日、朝昼晩、お風呂でお肉をマッサージしたら、どんどん絞れたし、ストレッチと体操をしていると、どんどんウエストも締まって来たんです。
あとは、「あそこ」がどんな具合かわからないので、あとでチェックして下さい。
私まだ新人なので、自分の体で稼ぐことはできないので、チェック、お願いします!!!
お前、よう喋るなあ・・・。
よくそれだけ長い話を一気に話せるな、関心関心!!
褒めるところは、そこじゃないと思うんですけど、まだ、私のどこか足りませんか?
どうすればいいのか教えて下さい!!
もう、私、精一杯、やって来たので、ぶっ倒れそうなんです!朝から何も食べてないし・・・。
そう言うと、彼女がふらついたので、僕の膝の上に横にならせて、毛布をかけて寝させました。
相当、疲れているのは、背中を触ればわかるし、深い眠りについて安心して寝ていました。
きっと、この子の目が覚めたらお腹が空くだろうと思うので、従業員、全員分のラーメンとお寿司をご馳走するお金を置いて、ママにあとは頼んで、自分はそのまま帰りました。
・・・・・・・・・・・・・
あの子の努力が「並大抵」でないことは結果でわかりましたが、それ以上に、周りの人を巻き込むほど、本気になったからこそ、ススキノのママさんたちが応戦してくれたのだと思います。
あれだけ競争が厳しくて、「女の子の奪い合い」をしているママさん同士が助けてくれるなんて、ススキノ最高のドラマです。
「困った人を支える気持ち」があるススキノも、まだまだ、捨てたもんじゃないと思いました。
いい時間を体験させてもらいました。
人生は、何が正解で、何が間違っているかなんて、本当は無いと思います。
その時その時、必死に生きて、誰か一人に褒めてもらえれば、それで十分だと思います。
もし、今の人生が苦しいと思っている人がいるのなら、この話を読ませてあげて下さい。
30歳で、命を失うか、綺麗になるかを本気で取り組んだ女の子の人生の1ページでした。
ご清聴、ありがとうございます。