【ダイエー】サラリーマン時代のクレーマーのおばちゃんと対話 3
「問題のおばあちゃん」に、お弁当を食べて頂いて、お煎茶も飲み干したあと、私はじっくり、「嫁になる女の話」を聞きました。
奥様、さっきの問題の息子の嫁候補ですが、1ヶ月分の買い物代として、5万円を与えた話しは、まだ終わらないですよね?
そうなのさ。黙っていたのは、1ヶ月間だけさ。
翌月の分の5万円を渡そうとしたら、
「お母さん、私、今、考えたんですが、これからずっと、お母さんのお世話をすると思うので、できればお母さんの貯金通帳を私に預けてくれませんか?
今は、お元気なので心配はしていませんが、私の同級生のお母さんたちの中で、ボケが始まった人や自分の貯金通帳と印鑑の場所がわからなくなったお母さんたちが増えてきたので、私、心配なんです。
できる限り、お母さんのやりたいことをさせてあげたいので、もし、よろしければ、お母さんの貯金通帳と印鑑を預けれもらえますか?
私はその言葉を聞いて、涙が出たよ。
息子しかいないので、女の気持ちがわからん息子と夫に囲まれていたので、「女の気持ちをわかる人」に出会えたと思って、通帳と印鑑をその女に渡したのさ。
そしたらね、翌日にね・・・
「お母さん、今後は、お母さんの介護施設代とか、いろいろかかるのを昨日の夜に計算したら、今のお金を無駄使いしてはいけないとわかったんです。
だから、お母さん、私はこんなことを言いたくはないのですが、毎日、五百円だけ渡しますので、これで1日、過ごして下さい。
私もなるべく無駄使いしないように努力しますので、よろしくお願いします。
このことは、あなたの息子さんにも許可を頂いておりますので、どうか、よろしくお願いしますと、五百円玉をひとつくれたのさ。
そこからが、地獄さ。
洋服が破れたと言えば、「自分で裁縫道具を使って繕って下さい」と言うし、お隣の奥様に頂き物をしたので、「お礼の品を買いたいのでお金を下さい」と言うと、「それは私がお礼しておきますので、お母さんは心配しないで下さい」と言うのさ。
私は、今まで結婚して夫と二人でお金をためて夢のマンションに入れたので、ずっと、ご近所や長いお付き合いの人たちと仲良くしてるのに、あのバカ女は、私の知り合いが誰かも聞かず、自分でお礼をするなんて言うのは、絶対に、お礼の品を返す気持ちなんてないはずさ。
だから、古いお友達全員に、今の我が家の事情を話してお詫びして回ったんだよ!
もう、悲しくて、死にたいわ・・・。
ここまで生きてきて、こんな扱いを受けるなら、息子を家に入れるなんて、言わなきゃ良かったよ。
他の家の事情も聞いているけど、あんな狭いマンションで二世帯が住めば、絶対に問題が出るとみんな言っていたけど、私が無知だったのが悪いんだねえ・・・。
「自分の馬鹿さ加減」がよくわかったけど、もう、主人も亡くなったので、私の味方はいないのさ。
家にもいても怒られるし、掃除の邪魔だと言われるし、いるだけで「老人臭い」と怒られるから、朝ごはんを食べた後は家を出ることにしているの。
お昼近くになると、デパートの食品売り場でサンプルを少しづつ摘んで、おにぎりとお茶を買って食べてから、夕食の時間までどこへ行こうか考えても、こんな年寄りが居ていい場所なんて、都会にはないからさ。
つい、デパートの優しい女性たちに話しをしたけど、あまりに嬉しくて、一人一人と話しをしたいので、毎日、札幌市内のすべての売り場の人の「名前のリスト」を作って、ご迷惑にならないように、毎日、違う売り場に行くようにしているの。
でも、もう、3週目だから、きっと、あの人たちも嫌になっていると思うから、こうして、こんな「汚いスーパー」に来てしまったのさ。
あら、ごめんなさいね、私、嘘はつけないので!
いえいえ、このお店は本当にボロボロで消防法でも許可が降りないので、あと3年で私のスーパーもこのビルから撤退が決まっています。
でも、よくぞ、こんな「汚いスーパー」にまで足を運んで頂きまして、ありがとうございます。
私は大学を卒業して、どんな仕事に就こうか悩んでいましたが、自分の人生の目的を「人にあうため」と決めたので、一番、たくさんの人に会える場所がスーパーだと思って入りましたが、あまりに忙しくて売り場にゆっくりいる時間がないんです。
今は、この売り場の責任者ですし、他に労働組合の仕事もしているので、二足の草鞋(わらじ)を履いて頑張っております。
デパートのような丁寧な言葉で話せない社員や、ガサツなパートさんもいますが、気持ちは本当にあったかい人たちなので、僕の唯一の救いは、自分の部下になってくれた社員とパートさん、アルバイトたちが、まっすぐな人間だからです。
でも毎日、スーパーはひとつひとつの商品の利益が少ないのでやることが多いし、あなたのように上品な奥様の対応を知らない人間もいるので、もし、失礼な気持ちにさせていたら、代表してお詫びします。
いづれ、店長も、あなたに挨拶しに来ると思いますが、気にしないで下さい。とても気持ちがいい素直な店長なので、さっき、僕がお煎茶を入れて持って行く時に、そのお茶をどうするのか?を聞かれたので、あなたのことを少しだけお話ししました。
あとで店長に、僕が買ったお茶をご馳走したら、とても喜んでくれたので、美味しいお茶のお礼をあなたにしたいと言っていますので、嫌がらないで下さいね。
あの店長も、嫁と自分の母親との問題を抱えているので、きっと話しが合うと思いますよ。
いやあ、そうかい、こんな婆さんの話しを聞きたい人なんているのかねえ。
でもね、私はその店長さんより、あなたともっと話したいので、今日は店長さんが来たら家に帰るけど、来週の同じ曜日にまた、この店に来るので、また私とお話ししましょうね。
はい、わかりました。次にお会いできる日を楽しみにしています。
この続きは明日です。