【ダイエー】倒産寸前の旭川家具の社長と交渉
最後のお店となった「ダ○エー札幌店」のサラリーマン時代、「どこの有名な家具屋でも仕入れられない」と言われた「旭川家具の会社」の実態を知りたくて、実家に近い旭川家具の住所を尋ねてみました。(ミヤサンと呼ばれた会社)
今は亡き「最後のお店」となった「ダ○エー札幌店」のためです。
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本社がある住所に行ってみても、ボロボロの建物があるだけなので、近所の人に聞いてみると、やはり、「そこだ」というので、ボロ屋の前で立っていました。
すると、ボロ工場の奥から音が聞こえたので、近づいて覗いて見ました。
一人は細いカンナで木のフチを削り、違う人はヤスリで木の端を優しく削っています。
奥には、板の反りを治すための圧縮レンチのボルトを締めているし、その右手には、家具の形になったものにニスを塗り、手で乾きを確認してから、また、こする作業を繰り返していました。
ふと、時間を忘れて作業を見ていると、実家の田舎の納屋の光景と同じだと思い、物思いに慕って作業に見とれていました。
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後ろから「おい!お前!誰だ?産業スパイか?」と肩を掴まれたので振り返り、男の人と向き合いました。
私の肩をつかんで振り向かせるとは、どんな奴かと思ったので、睨みをきかせて相手を見つめていると・・・
おい、喧嘩するならやろうぜ!
俺はケンカには自信があるんだ!
さ!殴れ!
私の家は「武士」の家系なので、理由なく相手を攻め込むことはしません。
でも、あなたが喧嘩したいなら、どうぞ、殴って下さい。
お相手いたします。
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「自然体の受け身姿勢」になると、すぐに打ち返せるので、相手も、なかなか打ち込めません。
剣道の間合いのように見つめないながら、離れたり、近づくことを続けていると、相手が一歩下がり、こう言いました。
おい、疲れたから、お茶でも飲もうぜ!
さ、事務所に来い!
あとから従業員に聞きましたが、社長が事務所に人を招くのは、ご両親と妻だけだと言っていましたが、もう、離婚されたそうです・・・。
出がらしのお茶をすすりながら、ここに来た目的を正直に話すと、こう言ってくれました。
どうせ、潰れる店なのに、どうしてそんなに人情が熱い奴なのか、お前も変な奴だなあ。
俺も、子供の頃から「変な奴」で通っているので、お前の気持ちはよくわかるぞ!
だから、展示だけなら1本だけ貸してやる!
あとは、カタログを見て販売しろ!
さあ、行け!
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結局、ものの30分で「旭川家具の商品を展示する許可」を頂いたので、社長が選んだ家具を社員と大事に毛布で包んで、そのままトラックに乗せて、私はそのトラックの後を自分の車でついて行きながら、ダ○エー札幌店に運び込み、大きな従業員用のエレベーターに乗せてみると、古いエレベーターの「ガタン!」という震度だけで「家具は歪む」と言うので、仕方なく、昔、「引越しのアルバイト」をした経験を思い出して、1階から8階の家具売り場まで、二人で非常階段を担いで高級な「旭川家具」を運び込むと、職人さんが驚いていました。
階段で回る時の重心の移動と、階段を登る時の体重の掛け方を間違うと、疲れてケガをするか、家具を傷つけるので、リラックスしながら相手の動きに合わせて大きな家具を8階まで運んだからです。
売り場に置いた家具に語りかけるし、頬を寄せて言葉を話している様子を見ていると、「自分と社長と二人で作った家具」だからこそ、「自分で運ぶ!」と言った理由もわかりました。
あまりにこだわりが強すぎて、年に数本しか売らないため、社長のお嫁さんは子供を連れて実家に戻ってしまったそうです。
大好きな子供たちの顔を見れなくなってからは、昼間から酒を事務所で飲む生活らしく、「従業員たちもかわいそうだが何もできない」と泣いていました。
8階の家具売り場のエスカレーターを上がった一番目立つ場所に、白いステージ台を設置して、二人で家具の配置を決めて展示した写真を撮ると、「私はこのまま帰ります」とドライバーが言うので、メロンパンとあんぱんを2個と牛乳を買って持たせました。
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大きな旭川家具のパネルをPOP室で作ってもらい、「カタログ販売承ります!」と、1階と8階に貼り出して、数日、待ちました。
私の日用品売り場は6階なので、もし、「旭川家具の件で問い合わせが来たら私をすぐに呼べ!」と家具の従業員全て通達し、休みなら、「いつ、私が出勤なのかを電話してからお客様に俺の名刺を渡せ!」と言っておきました。
つまり、旭川家具の販売員は、私一人しかいないのです。
家具の従業員から、以前、喧嘩になったややこしい男が、旭川家具のことを聞きたいと言われたので、8階に行って対応しました。
たかが、スーパーのダ○エーに置いている「旭川家具」なんて、偽物に決まっている!
本物なら証拠を見せてろよ!
と、偉そうに言う客だったので、社長の名刺を見せて、「不安があるなら自分で電話して聞いて下さい」と伝えました。
売り場から自分で電話してみると、態度が横柄な客だったので、「吉岡さん、あの客には欲しいって言っても、絶対に売るなよ!これは、俺からの命令だ!」と言われたので、そのまま正直に伝えました。
頭にきたその男は、大声で「客を差別しやがって馬鹿野郎!」と言ったので、私は近づいて、そっと耳に手を当てて、
「旭川家具を売っている商品をイカサマ呼ばわりして差別しやがって馬鹿野郎!!!」と、大きな声で叫んでやりました。
耳がキンキンすると文句を言いながら帰った後、どう見ても、デパートに行く高級そうな毛皮を着た太めの奥様が、私をじっと見ていました。
この奥様も何か文句を言いたいのかと思っていると、
あんたみたいにデカい男が、そんなところに立っていると、その「旭川家具」が見えないじゃないの!
どきなさい!あっちいけ!!!シッシ!
この高級そうな奥様は、家でもきっと、ご主人様をこうしているとわかりました。
ねえ、デカい、あんた!
この家具いくらするのさ?
POPもついてないし、送料も書いて無いので、いくら金を用意したらいいか、わからないでしょ!
早く値段を教えなさい!
もう、本当に、トロイ人だわねえ〜!
絶対に、この言葉もご主人に言っている!!間違いない!!!
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旭川家具の社長に電話して、値段と送料を聞いてみると・・・
吉岡さんよう、あんただったら、あの家具にいくらの値段をつける?
俺さあ、あの家具は、「一番最初に作った家具」だったので、売るつもりはないからこそ、お前に「見本」として預けたんだが、買いたい客には売らないといけないのはわかっているんだが、自分の子供をお嫁にやるみたいで、値段はつけられないのよ。
だからよう、お前が「俺の娘の値段」をつけてくれよ!!
俺は、それでいいわ!
送料は、全部、こっちでやるから貰わなくていいぞ!
じゃあ、頼んだぞ!
こりゃあ、困った!
いくら社長に気にいられたからと言っても、さすがに、「家具の価格相場」はわからないので、お客様に時間を頂いてから、デパート3軒の家具売り場を見て、価格相場を覚えました。
でも、それ以上の「こだわりの家具」だし、「引き出しを引くだけで感動する家具」としか言えないくらい、どこもかしこも、こだわりの極地なので、300万円とまず、決めました。
「五段引きの家具300万円」が家具の相場にあるかをカタログで調べると、海外のメーカーならあるけど、日本製にはないことがわかりました。
まあ、最低300万円あれば、1割お店に落としても、270万円は残るので、旭川家具の従業員の皆さんにお礼ができると思ったからです。
待ち合わせの時間に待っていると、毛皮をきた高級ババアがやってきて、紙袋の中から500万円をだして、「すぐに家に届けなさい!」と言いました。
まあ、本当に全てが上から目線のババアだったので、社長に電話するふりをしてこう言いました。
お客様、大変お待たせいたしました。
今、旭川家具の社長と話しましたが、あなたのように「即、もってこい!」という客ほど、「あとで返品するから取りに来い」と言うそうで、社長は、そのことを気にしています。
できれば、「絶対に返品はしないという契約書」にサインをいただけますか?
この旭川家具は、ダ○エーとしても委託販売ですので、信用に問題が出ると、2度と、取引できなくなるので、どうか、ご面倒でもサインをお願いします。
もし、こういうことが煩わしいと思われるのでしたら、どうか、今回はご縁がなかったことと諦めて、どうぞ、お帰り下さいませ。
あ!奥様、後ろのお客様がこの家具を見たいそうなので、どうか、横にずれて、家具を見せてあげて下さいませ!
もっと、もっと、横にずれていただかないと、それだけ、ふくよかなお体だと、後ろのお客様が見えないので、どうぞ、お引き取り下さいませ(^^)
毛皮着た上から目線のババアは、怒ってエスカレーターを降りていなくなりました。
後ろの女性は、家具売り場と知らずにエスカレーターを登ってきたようなので、下りエスカレーターへご案内して6階の売り場へ戻りました。
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しばらくすると、店内用のポケットベルが鳴り、「家具売り場にすぐきて欲しい!」と言われたので行きました。
8階に上がって驚いたのは、あの毛皮ババアが、男の人と一緒に私を睨みつけているのです。
おい!お前!
うちの母ちゃんに、「返品しない契約書」にサインしろとは、どういう了見だ!!
俺はこう見えても、〇〇建設の重役をやっている人間なんだぞ!
会社の名前くらい聞いたことがあるだろう!!
おい!お前!
そういう人間に向かってどういう態度をしたのか、わかっているのか!!
おい、土下座して謝れ!!!
あー、日本刀を持っていなくて良かった・・・、絶対に、すぐ切り殺してしまうタイプだわ、この人・・・・。
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あのう、お客様、ちょっといいですか?
あなたにだけ教えておきたいことがあるので、ちょっと、こちらへ!
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耳元で、あなたの会社の社長が私に頭を下げたことと、北海道中の「談合問題」を解決したことと、ゼネコンと政治家に抜かれる「賄賂を無くした男」だと教えると、怒り出したので、社長に、直接、電話で確認してもらいました。
思いっきり、社長に怒られたみたいで、電話を耳から話して聞いていたほど、社長は怒ってくれました。
だって、私は「日本全国の談合と賄賂の仕組み」を全部、変えた男なんだもん!!!!
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話が終わってから、そのご主人は、こう言いました。
吉岡さん、知らなかったとはいえ、大変申し訳ありませんでした。
今、うちの会社の社長と話しましたが、まず、この家具は私が1000万円で買わせて下さい。
それとは、別に、私と社長が欲しい家具がまだあるので、できれば、他の家具も見たいと社長も重役たちも言っているので、展示できる全ての家具をここに並べてもらえますか?
うちの社長は、昔からこだわりがすごくて、旭川家具があるなら全部買うくらいの人なので、あるだけ展示して下さい。
この「引き出し家具」は、娘が嫁に行くので、僕らも決断したんですが、甘かったですね・・・。
あなたにも、旭川家具の人にも迷惑をかけたので、これ、1000万円入っているので、これでこの家具を売って下さい!お願いします!
住所は、ここですので、いつでもいいので、配達して下さい!
娘の嫁入りは、来月ですので、できれば、その前にお願いします!
もう、何を言っても無理だと思ったので、1000万円の紙袋をもらってから住所と、娘さんが結婚する日にちを聞きました。
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すぐに旭川家具の社長に連絡してみると、今、すぐ送れるのは3本しかないが、一週間時間をくれれば、5、6本は送れると言ったので、そうお客様にお伝えして、一週間だけ「売約済み」の札を貼って展示させてもらいました。
ここから毎日、売り場に来た人がカタログを見て、欲しいんだけど、いつ手に入るのかを聞かれまくり、その度に旭川家具の社長に伝えて、できれば、すぐに持ち帰れるような小さい椅子かテーブルを作って欲しいと頼みました。
そのおかげで、旭川家具を欲しかった人たちは、さらにワクワクが広がって、展示される家具を見たくて1週間後の開店時には、8階に行列ができてしまいました。
ちょうど1週間後に、6本のいろんな家具が並びましたが、木の種類も違うし、塗りも違うし、引き出しの深さも数もバラバラなので、6本とは思えない迫力があり、広い売り場が「家具の見本市」みたいになりました。
天上のスポットライトも間接照明にして、フロアの電気も少し薄暗くしてもらって、アクセントランプを置いて、座れる場所をたくさん売り場の中に作りました。
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「私は買えないけど、この空間が好きだから、もう少し、いさせてね」とお弁当を持ってきたお年寄りや、独り者のサラリーマンの「癒しの空間」にもなってしまいました。
でも、6本の家具は、値段をつけるのが難しいので、全てお客様に「売約済みの紙」を渡して、その紙の右の隅に、数字で「金額」を入れてもらうようにしたので、絶対に、手に入れたいお客様は、毎日、やってきて、自分より高値をつけたのを見つけると、数字を書き直して手に入れていました。
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初日の〇〇建設の社長と重役たちには、地元が旭川だったので、「自分で社長に気にいられてから買って下さい」と教えておきました。
結局、6本の追加を3回転したので、売上はものすごい金額になりましたが、お金は全て私が現金を紙袋に入れて旭川まで車を飛ばして、社長に手渡してから、ダ○エーの手数料をもらうようにしました。
まあ、6000万円が売れたとすると、5%の300万円くらいはもらったような気がします。
毎日の現金売上金は、まとめてお店の金庫に入れてもらって、私が紙袋を持って旭川まで車で運び、展示販売料としてもらった1割の現金をダ○エーの売上として打ち込むことを繰り返しました。
旭川家具の社長が、「もう、売るものがない」と言った最終日に、社長本人が売り場にやって来て、商品をご案内していたので、驚きました。
おい、吉岡さん!
この最後の1本は、俺が売ったぞ!
お客に満足してもらって売るっていうのは、嬉しいものだなあ!
それにしても、「すごい売り方」を考えたもんだなあ?
客に数字をつけさせて、セリをさせるなんて誰も考えつかないだろう!
今日は、俺はお前と飲みたくて札幌まで来たので、仕事が終わったら二人でゆっくり飲もうな!
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旭川家具の社長の話を聞いていると、もう、聞いた話が凄すぎて・・・泣けました。
働いている従業員は、全員、体のどこかに問題を抱えていて、家を追い出された人たちばかりだし、子供の頃から社長になついて飯を食わせていた奴らに、仕事を教えて育てたことを聞かされました。
「親にも親族にも見放された人たちに、自分ができることをするのは、当然だ!」
と言い張る社長も泣いていたし、私も「当然だ!!!」と泣きながらビールを飲んだので、ビールか涙かわからない「しょっぱいビール」の味でした。
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今回の売上金でやっと、借金も返せるし、妻と子供たちも家に戻ってきてくれると言ってくれたそうです。
また、社長は、大粒の涙を流しながら、大声で泣いていました。
1時間ほど、泣き疲れたあと、私はこう言いました。
社長、今回のことは神様のお礼ですよ!!
きっと、あなたがここまでやってきたとを、全部見ていたお礼だと思います。
だから、俺も少しだけ言わせて下さい。
あなたは素晴らしい家具を作ることはできますが、人を育てたり、売ることは、全く苦手な人間です。
なので、日本全国にもたくさん「こだわりの家具職人」がいると思うので、その人たちと連携して商品を並べて売る「仕組み」を作って下さい。
もし、社長にそのアイデアが無くても、絶対にあなたのことを尊敬している若い職人たちはいるので、彼らにその「連携商売」をさせて下さい。
そして、儲かったら、あなたの本社を素敵に改築して下さい。
きっと、日本全国からあなたの本社を見たくてやってくるので、あなたのあのボロ本社は、もう少しで見納めです。
いいですか、これは、男と男の約束ですよ!
できないなんて言い訳は、私には通用しませんので、必ず、あの職人さんたちにも幸せな家庭や職場を与えてあげて下さい!
それをしてくれれば、私に渡そうと思っているその紙袋のお金は入りません!
あなたの成功を持って、「私へのお礼」としますので、ぜひ、大きな会社にして大成功して下さい!
でも、今日だけは、ご馳走して下さいね!(^^)
(後日談)
病院から電話をくれた社長は、最後に、こう私に言いました。
俺はもうすぐ死ぬんだけど、最後の姿はお前には見せたくないから、絶対に来るなよ!!
でも、お前に見てもらいたい場所があるんだ!
それは、お前と約束をした「本社」がやっと完成したので、俺が死んだ後にでも行って、見てきてくれよな!
これでもう、思い残すこともないので、俺は幸せだ!!!
なあ、吉岡さんよ、来世でも、また、会おうな!!
いやですよ、社長!!
あなたみたいに、頑固でいじっぱりな人は、あの世に言っても同じだし、また、来世も貧乏な生活をすると思うから、僕と約束するくらいなら、そこまであなたについてきてくれた部下たちと奥様たちにお礼を言って死んで下さい!
これが、私からの最後のお願いです!
社長のおかげで、僕も面白い経験ができました!
本当に頑固なのは同じだけど、俺、もっとでかいことにチャレンジしますわ!
この日本、いや、世界を変えるために自分にできることをしますので、雲の上から応援して下さいね!
この人生であなたに出会えたことは、僕にとっても一生の宝です!!
本当に、本当に・・・ありがとうございます!!!
しばらくしてから、新しい旭川家具の本社を見に行くと、後継者が案内してくれて、私との電話が終わったすぐあとに、社長は亡くなったそうです。
その場には、従業員も家族もみんな一緒に、私の電話を聞いていたので、本当に嬉しかったと教えてくれました。
現在は、倒産したようで、周りの会社を聞いても誰も知りませんでした。