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梨の木、リンゴの木、ふどうの木

子供の頃は、毎日、お腹が空いていたことしか覚えていないくらい、毎日、グウグウとお腹が鳴っていましたし、同級生もみんな同じでした。

そういう時は、お腹がチャプチャプになるまで、お水を飲み続けるしかない時代でした。

完全自給自足の農家にとって北海道は、半年間が冬なので、食べれる作物ができるまでには、時間がかかります。

春になって氷の下の凍った土が溶けた頃に苗を植えて育てた野菜が食べられるまでは、前の年の秋に収穫して、床下の「ムロ」に入れてある「ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ、大根、漬物」くらいしか食べるものは無い時代です。

 

夏になるとトマトやキュウリが「おやつ」でしたが、4つ年上の兄の時代は「大根がオヤツだった」と言い、収穫したばかりの大根の葉っぱのすぐ下をかじると甘いんだぞ!と教えてくれました。

生のキュウリはそのまま食べても味気ないので、私は醤油をお皿に持って付けて食べていました。

トマトの時期になると、山ほどあるので、「腹一杯食べなさい」と母に言われますが、食事の時間には、お味噌汁にも食卓の全てにトマトが入っているので・・・いくら腹が減っていても飽きます。

味のあるものを食べたいと思っていると、夏が終わったあとに、リンゴと梨の木に実がなるので毎年、楽しみに食べていました。

 

その話を同級生に教えると、「いいなあ、うちにはリンゴも梨の木もないんだ。」と言われて、初めて驚きました。

気がつくと、いつも実がつくものだと思っていたのに、他の家から羨ましがられることに驚いたので、母に聞いてみました。

なぜ、うちにはリンゴの木が梨の木が2本づつあるの?

あの木はね、私のお父さんが、お前たちが生まれた時にわざわざ、片足で1kmを歩いて持ってきてくれたんだよ。

え!なんで!!???

男の子は、いつもお腹が空いているものだとおじいちゃんも体験で知っていたからこそ、子供が大きくなって他の家の物を盗んだりしないためにも、この木を植えろ!と持ってきてくれたのさ。

お兄ちゃんが生まれた時に、りんごの木と梨の木を1本づつ持ってきてくれて、お前が生まれた時にも喧嘩しないためにと、また、リンゴと梨の木を1本づつ、持ってきてくれたんだよ。

あなたの父さんにそのことを言うと、リンゴや梨を木を育てたことがないせいか、「そんなもの、手がかかるんじゃないのか?

暇人しか作れない物なら、捨てておけ!」と言われたけど、じいちゃんに聞くと、

「どこでもいいから畑の隅に植えておけ!

いつか、必ず、実がなるから、畑に生ゴミを捨てる時に、木の根っこにも撒いておけ。」

とだけ教わったのさ。

畑は私の責任でやっているので、文句は言わせないよと父さんに言って、自分で植えて、実がなるのを待っていたのさ。

番最初に実がなったリンゴを父さんに食べさせると・・・、

「うまいなあ、ちゃんと肥料をやって育てろよ!」

と言われたのさ。

それからは、父さんも兄も、リンゴと梨の木に実になるのを毎日、待っていたんだよ。

今ならお金を出せばいくらでも美味しいリンゴが買えるけど、私は、このリンゴと梨の木を見ていると、自分の父さんの優しさを思い出すので、涙が出るのさ。

今度は、あんたも毎日、木の成長を見て、食べれるようになったら教えてね。

もう、にいちゃんも忙しいし、父さんも忙しいので、今日から「リンゴと梨の木の番人」を命じます、よろしくね。

母は、「最後までリンゴと梨の木だけは切らないで!」

と父に頼んでいたほど、思い出が多いようですが、私はじいちゃんが僕らの先のことまで考えて持ってきてくれたことに頭が下がりました。

だから、リンゴと梨の木に実がなると、もっとも貧乏な家の子たちを内緒で家の畑に連れてきて、食べさせてあげました。

絶対に、親にも友達にも言わない約束で・・・・。

 

「言わない約束」って、本当に守られないみたいで、私が知らないお兄ちゃんたちが、畑でリンゴや梨を取ろうとしていた現場を押さえました。

「あんたたちは、誰ですか!?

いくら上級生でも、やって良いことと、悪いことくらい分かりませんか?

あなたたちのお腹が空いているのは僕も同じだからわかりますが、今日、食べて良いリンゴと、もう二、三日、待ったほうが美味しくなるリンゴの区別はできますか?

できないなら、私に言って下さい。

父と母も楽しみにしているリンゴですので、今日、食べる分が無くなると、私が怒られます。

だから、毎日、残った少しをあなたたちに分けますので、一人か二人だけ、ここに来て下さい。

どうか、お願いします。

青いリンゴを木から折ってしまうと、次のリンゴができなくなるので、切る時にもコツがあるので、お願いします。」

と先輩たちに頼んで我慢してもらいました。

 

翌日から、一人、二人とリンゴを食べる順番を決めたようで、「スマンな」と言いながらうれしそうにリンゴを頬張っていました。

じいちゃんがくれたリンゴと梨の木のおかげで、私がどんなことをしても、守ってくれる先輩たちができたことが嬉しくなりました。

小学1年生から中学3年生までが一緒にいる1学年1クラスの学校ですので、下級生をいじめる先輩が必ずいるのです。

もし、自分だけ食べていれば、こんな素敵な先輩たちと仲良くすることなんてできなかったはずです。

じいちゃんは、「物の大切さ」よりも、物も人も、気持ちも、「どう扱うかの心」を徹底的に教えてくれたことを感謝しました。

自分が頂いた物を、家族で食べるだけでなく、必要な人にあげ渡してあげることで、自分も守られる体験をしているからこそ、私は今も続けています。

「命を守る方法」を、食べ物から教わった気がしました。

優しいじいちゃん、ありがとうございます。

 

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