長ラン・リーゼントの学級委員長 4 校長先生と担任
クラスの午後の授業をボイコットして、討論させた事件のあと、担任の先生から呼び出しがありました。
「お前よ、頼むから問題を起こさないでくれよな。
今回のことは校長先生が何とか収めてくれたけど、他の先生たちはお前の行動と言葉に頭にきて、学校の裏に呼び出して殴ってやろうかと話していた先生もいたんだぞ!」
ちょっと、待って下さいよ。
その先生は誰ですか?
それじゃあ、ガキと一緒じゃないですか?
俺もガキだけど、「生徒の領分」はわかっているからこそ、学級委員長としてクラスの問題をまとめたんです。
俺に文句を言いたい先生がいるなら、俺の代わりに、自分のクラスに行って、同和問題やエタ・非民問題を生徒が納得いくように話して下さい。
そうじゃないと、俺たちが話しあった意味が、ないじゃないですか!
職員室の先生たち全員に聞こえるような大声で!
「先生たちで、俺に文句がある人は、いつでも俺に直接、言って下さい。
ご迷惑をかけたことは、お詫びします。
その代わり、今回の同和問題は自分たちで決着をつけたのですが、今からでも先生たちは自分のクラスに戻って、生徒たちが納得いくように説明してあげて下さい!
俺が間違っているのなら、今、すぐ言って下さい!
いくらでも話を聞きます!
それと、私の担任に陰でゴチャゴチャ言うのは、やめて下さい。
それは、先生同士のイジメでしょ!
ガキな生徒と同じようなことを職員室でやってるのなら、俺は今度は、クラスにこの話を持っていって、全員で話し合いますが、それでもいいですか?!!!
職員室が、シーンと鎮まりました。
奥の校長室から、校長先生が顔を出して、私を呼んでいます。
「はい、何でしょうか?」と大声で、校長室に入ると・・・。
ちょっと、ドアを閉めてくれ。
教頭先生が入ろうとすると、「お前は出ていけ!」と怒りました。
校長先生は、小さな声で俺にこう言いました。
「お前ならわかると思うけど、教頭先生は、次の校長を狙っているので、学校で問題が起きるとマズイのさ。
俺はもうすぐ退職だから、どうでもいいんだけどな。
そして、先生たちの中にも、次の教頭先生を目指している奴もいるんだ。
わかるよな、みんなお互いに牽制しあっているし、この学校で過ごす期間をうまく満了したいのさ。
だからよお、お前のことを責めたりはしないけど、もっと、上手にやってくれよ。
お前の担任の◯◯先生は、ちょっと家庭の事情があって、なかなか他の先生たちともうまくいってないんだ。
だからよ、お前がもう少し先生たちや他の人のことを考えてやってくれないか?
俺が言えば、命令になるし、他の先生とのエコヒイキになるので、立場上、マズイんだわ。
お前なら上手に、裏表を使って立ち回ることができるだろう?
お前みたいな奴が生徒会長だったら、俺も楽なんだけどなあ・・・。」
校長先生、お気持ちはよくわかりました。
でも、俺は裏表を上手に生きれる人間じゃないので、生徒会長に、もし、なったら大変ですよ。
多分、生徒全員で、職員室に殴り込みをかけるかもです。
でも、校長先生の言いたいことはよくわかりました。
俺も自分のクラスの担任を悪く言われて気分は良くないですが、一度、先生の自宅にお邪魔してゆっくり話を聞かせてもらおうと思っていました。
どんな家庭の事情があるのかわかりませんが、俺たちの生徒たちの家にも同じような問題はたくさんあります。
でも、その問題を乗り越えて生きていかないと、人生なんて問題ばっかりじゃないですか?
世の中もおかしいし、大人はいつも嘘つきだし、本当は俺は大人になるのが一番、嫌だったので、中学2年生の時に、自殺しようとしたくらいです。
でもそういう時期に、一人の国語の先生が、自分の生徒が自殺した体験談を授業を潰して話してくれたおかげで、死ぬことも考え直しました。
だから、私の担任の問題は、私の「恩返しのチャンス」だと思ってしっかり向き合いますのでご安心下さい。
よくわかったけど、お前にそういう考え方を教えたのは誰だい?
お父さんかい?
いいえ、父は無口な人なので、何も言いません。
私をこういうふうに育ててくれたのは母ですが、その母を育てたのは、戦争で足を一本、取られたおじいちゃんです。
え!あの町の中を1本足で歩いているおじいちゃんか?
見たことあるんですか?
ある!ある!
よくあのお年で、杖をついて一人で歩いていると感心したんだ。
誰も付き添いもいないので、すごい人だと思ったんだ。
芦別には、1本足のおじいちゃんが二人います。
これは、私のおじいちゃんから聞いたのですが、一人のおじいちゃんは、子供の頃に交通事故になって、左足を切断したそうです。
私のおじいちゃんは、右足がありません。
でも、遠くから見るとわからず、私も間違えて声をかけたこともあります。
私は、自分のおじいちゃんのことを、この世の中の誰よりも尊敬しています。
自分の考えよりも、世の中のことをよく勉強しなさい。
そして、周りの人たちの反応をよく観察しなさい。
そのうえで、自分が何をするべきか、何を言うべきかを考えなさいと、子供の頃から教わって努力してきました。
だから、今回の事件も、私の中では必要だと判断した結果ですが、それが先生たちや校長先生にご迷惑をかけたことは、謝ります。
本当に、申し訳ありませんでした。
もう、済んだ話じゃないか、もう謝らなくていいぞ。
いえ、私は自分が判断したことの愚かさに、あとで気づきました。
学校の中では生徒だけじゃなくて、先生たちもお仕事をしているのに、学生気分で物事を判断した自分の愚かさに気づいたのです。
先生たちの立場や意見の違い、そして、うちの担任みたいに、問題を抱えた先生もいるのかもしれないことを考えていませんでした。
今は、その愚かさに気づいたのでお詫びします。
学校に泥を塗るような発言と行動をどうぞ、お許し下さい。
校長は、次に言う言葉を見失ったように私をじっと、見つめていました。
俺も長い間、先生をやってきたけど、お前みたいな生徒は一人もいなかったなあ。
いたら、先生たちも助かるのに・・・・。
お前、いつか「先生」になれよ!
それがいいわ!なれなれ!
いいえ、大変申しわけありませんが、私は中学の時から先生たちのことを「センコー」と呼んでバカにしてきましたし、今でも生徒たちとはそう呼んでいます。
そんな奴が「センコー」と呼ばれる立場になるなんておかしいし、俺は、何があっても「先生」にだけはなりません。
人に自分が知っている物事を教えたり、一緒に問題を考えて希望に導くのは大好きですが、「先生」という職業には向きません。
いつか、自分で人に物事を教え導くことができる人間になるように努力しますので、どうぞ、足りない点があれば、いつでも教えて下さい。
私は生きている全ての人生の先輩たちが「先生」だと思っています。
良い先生も、悪い先生もいるおかげで、子供たちは多くを学び、「考える力」がつきますので、どんどん問題が起きれば起きるほど、人間は賢くなるとおじいちゃんに教わっています。
だから、無理なんです、私が先生を目指すなんて!
どうか、二度と言わないで下さい。
この話をもし他の生徒が聞いたら、俺は敵の回し者になってしまいますので、問題児のまま、卒業させて下さい。
どうか、よろしくお願いします。
わかったぞ、もう言うな。俺もバカだったわ。
お前の覚悟も分からずに、子供扱いしていたな、すまん。
卒業まではそんなに時間はないけど、お前の悔いのないような学校生活を送りなさい。
何が起きても、俺は知らんけどな・・・(^^)
久しぶりに良い大人に会えたことに嬉しく思い、職員室をあとにしました。
職員室を出ると教頭先生が待ち受けていて、「校長は何か俺のことを言っていなかったか?」と聞きますので、「いえいえ、教頭先生はよくやってくれた」と言ってましたよ。
それと、「今、俺の担任の先生のことが問題になっているけど、きっと、教頭先生が解決してくれるから、余計なことはするな!」と怒られましたと教頭先生に言いました。
教頭先生は笑顔になり、振り向いて、先生たち全員に、「何か問題があれば俺に言ってこい!
俺はお前たち先生の問題を解決するのが役目なので、これからも一生懸命にやるのでよろしく頼む!
それと、こいつのせいでいろいろ、学校中の問題になったが、一切、担任の先生は悪くないので、陰口も言い訳も禁止する!
俺も校長先生も、今回のことは不問にすると決めたんだから、指示には従うように!!!!」
まあ、大人ってこんなもんだと、思っていた通りの行動でした。
担任の先生のところへ行き、
「先生、今度、先生の家にお邪魔していいですか?」
と聞きました。
「今回のことだけじゃなくて、他の生徒も先生の奥様に会いたいって言っている奴がいるんですよ。ぜひ、お願いします。
奥様にはご迷惑をかけると思いますが、ぜひ、奥様にお伝え下さい!」
ウチの奴がなんて言うかわからないので、聞いてから返事していいか?
はい、結構です。
ダメなら、ダメでいいですが、奥様にどうしても会いたいと言っている生徒がいることだけは伝えて下さい。
翌日、先生から奥様の許可が出たと聞いたので、慌てて一緒に先生の家に行く奴を探しました。
誰も本当は行きたくないのはわかっていたけど、これは先生のタメだからと、幼稚園からの同級生が他のクラスにもいたので、無理矢理、明日、連れて行くことにしました。
それと、自分の親たちに先生の家に行くので、何か手土産をもってこいと伝えました。
「そんな気の利いたものなんて、うちにはないよ。」と言った奴には、農家はなんでも作っているだろう?
お前の家でも、トウキビ、人参、ジャガイモ、お米くらいは作っているだろう?
そんなもんでいいの?
お前なあ、先生は給料で生活してるから俺たちが腹一杯食っている野菜さえ、お金を出して買っているのだぞ!
だったら、奥さんが一番喜ぶのは農家の最高に美味しい野菜やお米だよ!!!
わかったよ、じゃあ分担するね。
あんたはニンジン、私はじゃがいも、あ!大根もあるよ!
一番重いお米は、俺が担いていくからな!じゃあ、明日はよろしく!
家に帰り、母に明日、担任の先生の家に行くと告げると驚いた顔をして、
「手土産はどれだけいるんだい?
一俵かい?二俵かい?」
おフクロ、それは無理だって!
俺が一俵(60kg)をかついで学校にはいけるわけないでしょ。
何、言ってるのさ。
本当に、バカな子だね!
お前たちが世話になっている学校の先生だろう!
そりゃあ、私たちだってほおってはおけないよ。
一緒に誰が行くのさ?
幼稚園時代のあいつら3名を連れて行くことにしたよ。
じゃあ、私があの家のお母さんたちに言って、何を持っていくか相談するわ。
大丈夫、私が学校が終わるころに、軽トラックに載せて持っていくわ。
話がでかくなり、一緒に行く生徒より、お母さんたちのほうが真剣になり、お互いに何を持って行くのか、バトルになりました。
ちょっと、お母さんたち、子供のことにそんなに真剣にならないでいいですよ。私たちと先生の問題ですから・・。
バカ言っているじゃないよ!
お前たちみたいなバカな子供と違って、「先生様」は先生になる大学まで出てお勉強した賢い人だからこそ、お礼をしなきゃいけないのさ。
それが、「親のつとめ」ってものさ!
だから、黙ってなさい!
お勉強はできて大学にもいったはずの先生たちが、人間的には俺たち学生と同じくらいのガキなレベルだとは決して親には言えませんでした。
翌日の放課後、先生の家の前に母が軽トラックをつけて、山ほどの野菜とお米を置いていったので、みんなでかついで担任の家の前に行きました。
奥様がドアを開けて驚いていましたので、
「奥様、いつも本当にありがとうございます。
いつも先生にお世話になっているバカな生徒たちからの心ばかりのお礼の品でございます。
ぜひ、奥様から他の先生たちにも「お裾分け」していただけませんか?
なま物もありますので、早く食べないと痛みますので、ご自分の家で食べたい分を取った残りを他の先生たちに分けてあげて下さい。
もし、足りなかったら、いつでも言って下さい。
みんな農家の娘と息子なので、いつでも運んできます。
そのあとは、家にお邪魔してお茶とケーキを頂いて、「子供が甘いものが好きなので、大豆やあずきもあれば欲しいわ!」と言われたので母に報告して、翌日、持参しました。
翌朝、学校へ行くと、すれ違う全ての先生が私に笑顔で挨拶をしてくれました。
昨日とは、ま反対の対応に驚きましたが、その笑顔が、「お裾わけ」の効果だとわかり、親が山ほど野菜とお米を持たせた意味が、やっとわかりました。
自分のことだけを考えて生きるんじゃない!
人は一人では生きていけないからこそ、いつでも、周りの人のことを考えて生きなさい!
と教えてくれた母とおじいちゃんに心から感謝でございます。
本当に、ありがとうございます。