キップが良いお父さんと釧路の寿司屋(漁師番屋)で飲みながら話していると、それまで一緒に食べていた周りのお父さんたちが帰る時、全員が、私の目の前のお父さんの横に来て、腰を折って「お先に失礼します」と言ってから店を出て行きました。
「おう!今日は早いな!明日は確か、孫の入学式か?
札幌だったけ?気をつけて行けよ!」」
この会話だけで、この地域で、どういう人なのかはわかりました。
でも先輩なので、私から「帰りたい」とは言い出せないので、横にいる女性を”出し”に使って、トイレに行く間に話しをしてもらいました。
トイレから戻って席に着くと、お父さんはこう言いました。
「いやあ、すまんなあ、若いの・・・。
俺は自分が気持ち良くなったので、お前をこのまま家に連れてって、飯でも食わせてやりたいと思ったら、横の女性が、これからホテルに行くので、あんまり飲ませないで下さいと、お願いされたのさ。
確かに、飲み過ぎたら勃たなくなるので、いかんよなあ。
すまんな、女に気を使えないのは、俺の悪い癖だと、いつも母ちゃんから怒られるのさ。
いいなあ、若い奴は・・・。
今度、札幌に行く時に、連絡するから名刺をくれ!
携帯電話は、持っているか?
俺たち漁師は、海に出ると「通信だけが命を守ってくれる」ので、いくら高くでも携帯電話はすぐに買ったぞ!
船の上でも使える衛星電話ってヤツも、持ってるぞ!
確か、契約だけで150万円くらいしたかな?
でも、それで命を守れるなら安いもんさ。
俺たち漁師は、海の上の仕事なので、生命保険も、自動車保険も使えないので、誰も入ってないんだぞ!
だってな、船の上で死ぬのか、生き残れるのかは、本人次第だからな!
いくら船の無線があっても、嵐の日になれば、どんな電波でも風と波で届かないのよ。
荒波で船が倒れないように、一晩中、舵を切りながら、陸地がどっちかを感覚で覚えている奴しか、生き残れない仕事なんだ。
だからよ、俺たち漁師は、丘に上がれば、カッパよ!
川の水でチャプチャプ遊ぶしか脳がないバカもんだが、一旦、船に乗れば命がけよ!
おい、にいちゃん、俺が死ぬ前にもう、一度、飲もうな!
俺は、お前に惚れたわ!
お前が何か金で困ったら、俺がスーツケースに金を詰めて、持って行ってやるから、いつでも電話しなよ!
さ!帰れ!今日は、この可愛い女の子と、釧路の夜を楽しんでくれな!
そうかあ、朝までホテルを一歩も出ずに、しまくりか?
そりゃあ、いい!最高だ!がんばれよ!!!(^^)
地元の漁師しか行かない寿司屋(漁師番屋)を出た時は、まだ、夕方でしたが、この人たちの生活時間では、もう寝る時間が近いのです。
夜中に仕事に出て、真っ暗な海の上を船で漁場まで行く本能は、人間が一人で生きられる「最後の生命線」だと思いました。
内陸で育った人間は、ほとんどこういう漁師の生活は知らないまま、「少しでも安く美味しいお魚が食べたい」と文句を言う人もいますが、実際に、海で漁をしている人たちは毎年、今も亡くなる人がいます。
日本中で海の仕事をしている人たちに感謝する気持ちになれたのも、このお父さんとの出会いのおかげでした。
数年後、私は札幌市内であちこちの店を転勤していたので、住所は2、3年ごとに変わるし、連絡をつけたくでも無理だと思っていましたが、昼間の仕事をしている時に、お店の電話交換者が、「◯◯さんという人から電話が入っていますが、受けますか?」と交換手に言われました。
「誰か、わからんなあ。どういう理由で、俺に電話したのか、聞いてみて?」と言うと、「釧路の漁師だと言っています。」
それだけですぐにわかったので、今日の夜、ススキノで待ち合わせすることにしました。
声は、若い息子の声なので、お父さんも一緒にいるかを聞いても、「今は、いません。」としか教えてくれません。
仕事を終えて、待ち合わせの場所に行くと、やっぱり、息子が一人でビルの角に立っていました。
「どうした?お父さんは?」
ご報告が遅れて、すいませんでした。
父は、先日、自宅で亡くなりました。
最後の最後まで、「アイツとまた、飲みてえなあ〜」と言い続けて、亡くなっていきました。
息子の俺に、最後に言うことないかを聞いたら、
「お前には俺の生き様を全て見せてきたので、もう良いだろ。
俺が最後に惚れた男と張り合ったんだもの、お前も良い度胸してるわ。
アイツが、本当にスーパーの店員なのか、俺が死んだら会いに行って確かめてくれ!
そして、この金を渡して、俺がもう一度、会えた時に使う分だと言って渡してやってくれ!
父は、そう言って、貯金通帳を1冊、くれたのですが、金額を見て、家族で揉めたんです。
母と、俺と妹の3人に残す金は別にあるんですが、女たちは、どうしてそんな知らない人に金を渡すのかわからないと言うので、俺がもらうべき分から今日、あなたに渡す金を持ってきました。
どうか、お受け取り下さい。これが、父の思いです。
と、パンパンに膨れ上がった封筒を二つ、私に渡そうとしました。
ちょっと、待てよ!
おい、ここはススキノだから危ないヤツもたくさんいるので、そんな金はカバンの奥にでもしまっておけ!
俺はいくらお父さんの遺言でも、そういう金は貰えないぞ。
俺はお父さんと飲めるならいくらでも付き合うし、お父さんにご馳走されるならいくらでも飲むし食べるが、お前みたいな若造に飲み代をおごられるほど落ちぶれてはいないので、その金を持って、さっさと帰れ!
俺は、そういう形で「儀礼」をされるのが、一番、嫌いなんだ。
男と男ってえのは、「形で思いを示したら」それまでの付き合いさ。
思いと思いで繋がった男同士は、形にできない思いをどうやって次に返すか考えるもんさ。
それが、「男の礼儀」ってもんさ。
お前、親父が亡くなったのに、まだ、「半人前」だなあ。
あの人みたいに素晴らしい人の息子なのに、何にもお父さんから学んでないのか?
寂しいなあ、お父さんも、きっと泣いてると思うなあ・・・。
そう言うと、息子は、ススキノの街の真ん中で泣き出しました。
そして、私に土下座して、お詫びようとしました。
腕を持って、やめさせようとしても、体重を乗せた思いが強すぎて、歩行者天国の真ん中で、土下座をしてしまいました。
すると、すぐにチンピラ数名がやってきて、
「おい、お前たち、何か揉め事か?
この俺の組のシマ(ナワバリ)で問題を起こすなら容赦しないぞ!
ちょっとそこの、組事務所まで来い!
おい、さっさと、来いよ!」
全く田舎もんは困ると思いましたが、3人組のチンピラの一番年上の男に、私はこう言いました。
「あのう、すいませんね。こいつ、釧路の漁師で、都会のススキノが初めてなので、綺麗なネオンを見てたら、足がもつれてこけたんです。
だから、見逃してやってください。
あなたたちのシマ(ナワバリ)で問題を起こす気はないので、どうか、静かにお引き取り下さい。」
と、言ったあと、じっと、その男の目を見つめました。
しばらく睨み合いになりましたが、向こうから、
「おい、帰るぞ!こいつら、ただ、コケただけだとよ。さあ、引き上げるぞ!」
と若い奴らの首を捕まえて帰る振り返りざまに、
「おい、どこの組のもんか知らんが、絶対に、このシマで問題を起こすなよ!
今、俺たちは警察から目をつけられているので、絶対に、問題を起こせないんだ。
お前たちの組にも、その通達は出ているだろ?じゃあな。」
と言って離れて行きました。
「いやあ、そうとは知らず、失礼しました。
早々に、呑んで静かに帰りますわ。お疲れ様です!」
と言って、チンピラ三人と別れました。
どうして、こんな真面目で健全なサラリーマンにイチャモンをつけるのかわかりませんが、それよりも、目の前の漁師の息子をどうするか考えるほうが先でした。
この続きは、明日です。
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