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長ラン・リーゼントの学級委員長 7 初めての高校生の外泊

いろいろあった高校時代の最後の思い出は、卒業を前に、就職活動をするヤツや、大学受験に行くヤツらが増えたので、1月から3月までクラスの全員が顔を見せる日はありませんでした。

2年間、学級委員長という役目をもらったおかげで、同和問題や学校祭の事件を起こし、学校中で有名になったし、校長先生とも本音で話し合えたし、担任もご家族とうまくいったようで、あとからお礼を言われました。

 

そんな思いでも、卒業したらそれぞれの道へ進むので、一生、会えないヤツもいると思っていると、「卒業式が終わったら男たちだけで最後の時間を過ごさないか?」と提案するヤツが出てきました。

すると、一人の男が「俺の家に集まろうぜ!」と言いました。

 

俺の本当の家は、16km先の山奥なので、夏は自転車で通学し、冬は、片道3時間も歩くので、さすがに父さんが姉と一緒に住める一軒家を借りてくれたので、3月は俺一人だから、何人でも泊まれるぞ!」と言うのです。

男たち全員が最高潮に盛り上がりましたが、問題は、初めての「外泊許可」を母が出してくれるかが問題でした。

行く気満々で、母に聞いてみると、

「とんでもない!まだ、親の金で暮らしているヤツが、何を贅沢なことを言っているのか!」と怒り、許してくれません。

 

親父に聞いてみると、「別に、いいぞ!」と許可を出してくれたのに、なぜか、母は子供が自由に好き勝手することが気にいらないようで、自分の父親からやりたいこと全てを否定された話まで持ち出して、私にあきらめるよう説得に入りました。

「わかりました。日帰りで帰るので、いかせて下さい。」とだけ言って、当日、迎えに行くから場所を教えなさいと言う母には、俺も場所を知らないので、現地の電話ボックスから連絡します」とだけ言って行く許可を取り付けました。

 

  俺のクラスの男たちは、見た目はガラの悪そうなヤツらばかりですが、頭も良いし、勉強もできるし、人間としても良いヤツばかりなのですが、一人だけ躊躇しているヤツがいました。

その男のお父さんは、芦別市の警察署長の長男だからこそ、親父に迷惑だけはかけたくないと一人で悩んでいました。

「そうか、じゃあ、俺も一緒にいって、お前の親父にお願いするから、それでいいか?」と言うと、とてもうれしそうにして行ける可能性があることを喜んでいました。

 

この男は、3年生の時に転校してきたヤツなので、いろいろ世話をやいていたので、自分との信頼関係はクラスで一番だからこそ、警察署長のお父さんに一緒にお願いする覚悟があったのです。

  学校が終わると、そいつはソワソワしながら、「父さんの好きなメロンパンを買ってくるわ!」と目一杯、緊張していました。

メロンパンで釣れるのか?と思いながらも、お母さんに事情を説明して、お父さんが帰ってくる時間まで待ちました。

 

ガチャ!と警察官の官舎の玄関が開くと、お父さんが、のっしりと入ってきました。

「おー、珍しい。お前の同級生か?まあ、ゆっくりしていけよ!」とだけ言って、警官の制服を着替え始めました。

お父さんの着替えが終わるのを待って、

「お父さん、今日は、お願いがあって私はここへ来ています。どうか、話だけでも聞いてもらえませんか?」

と言うと、私たちの前にドッシリ座って、

「おう、なんでもいってみろ!」と言うのです。

 

さすが、警察署長!ヤクザたちに脅しをかける時の顔とは違いますが、眼光が鋭いので田舎の親父たちとは違います。

「お父さん、俺たちは、今年で高校を卒業します。

こいつとは、まだ1年弱の付き合いですが、本当に優しいヤツで、俺も何度も助けられているし、俺の仲間達もこいつを囲んで最後の時間を一緒に過ごしたいと思って、今日はお願いに上がりました。

集まる場所は、友人の家で集まりますが、周りの大人たちには迷惑をかけないように気をつけますので、どうか、1泊、一緒に過ごす許可を下さい!」

 

俺も、同級生も、土下座です。  

しばらく沈黙が続き、怒られるのかと思うと

「おい、いつまで土下座しているんだ!

俺がお前たちを怒っているみたいじゃないか!

男はそんな簡単に土下座をするもんじゃないぞ!

男が土下座するということは、首をはねてくださいと言っているのと同じなんだ。

一昔前なら、お前たちは即刻、首をはねられて終わりさ!ハ!ハ!ハ!」

とお父さんは大声で笑ってくれました。

 

そして、自分の息子にこう言いました。

「おい、◯◯!お前もいいダチを持ったもんだなあ!

俺も鼻が高いぞ!

お前は長男だからいつもビクビクしているのが気になって、よく殴ったが、それは俺の愛情だとわかっているよな?」

息子「はい、わかっています。ありがたいと思っています。」

 

  「でもよ、俺を初めてお前は喜ばせてくれたんだぞ!

だから、今日は俺がお前に感謝をするわ!

おい、母さん、今日は飲むぞ!」

と言って席を立とうとしたので・・・。  

「あのう、先ほどお願いしたことは・・・。」

 

いいに、決まっているじゃないか! 何言ってるんだ!

男が男に惚れて、他人に頭を下げるなんて、なかなかできるもんじゃないぞ!

 

俺たち警察官は、いつも、街の安全を守っているが、家庭の問題があるヤツもいるし、離婚や金使いが荒くて、嫁さんに泣かれるヤツもいるのさ。

 

俺は、その度に、嫁や子供たちに話しをしに行くんだが、バカな男たちでも一応、警察官なので、どうか、家庭の問題を外で口にしないようにとお願いして回るのさ。

そりゃあ、疲れるよ。

 

警察にいるより、ヤクザになったほうがいいヤツもいるくらいバカも多いが、俺が大事にしているのは「人情」なんだ。

人間はな、人情が無くなったら終わりよ!

 

法律もあるし、行政のうるさいヤツも多いけど、俺は高校を出て、現場から必死に勉強してここまで上り詰めたんだ。

 

「今、警察所長ですが、それ以外にランクってあるんですか?」

あるともよ。

定期的に試験を受けて合格せにゃならんし、上司からの評価で受験できるかどうかも決まるので、アホほど殴られても、上司には刃向かえないものなんだ。

そう言うもんだぞ、働くってことは!

だから、俺もたくさんの仲間に救われたからこそ、今、「警視」という資格になったんだ。

 

「警視って、あの太陽にほえろ!の刑事の上ですか?」

 

「お前なあ、まあ、一般人は警察の職位なんて知らんから仕方ないけど、俺の上の職位は、「警視正」だけで、大きな警察署の所長か、北海道のトップか、東京の警視庁のトップくらいしかいないんだぞ!

 

それも、高校出の「警視」なんて、前代未聞だと同期のヤツらからいつも賞賛されるんだが、昔、俺を殴っていた上司が今は、部下さ。

優しくしてやっているけどなあ・・・(^^)」

 

このお父さんは、タダモノではないとわかりましたが、晩御飯をご馳走になりながら、俺に飲め!と酒を勧めるこの親父が好きになりました。

 

「おい、◯◯!明日のみんなが集まる時に、これを持っていってみんなで飲め!」

とサントリーオールドの新品ボトルを出してきました。  

俺も、同級生も目が丸くなりましたが、お父さんがこう言うのです。

 

「この酒はなあ、俺と一緒に現場で苦労した同期と飲もうと思って買っておいた貴重な酒なんだ。

 

俺たちの若い頃は、こんな高い酒は飲めないので、夢のまた夢の酒なんだ。

来年、飲もうぜ!と電話で約束したのに・・・アイツ、死にやがったのさ。

 

バカな暴力団の抗争に巻き込まれて、俺と同じように正義感が強かったから、若い警察官の前に出た時に、腹にグッサリ、ドスを刺されてえぐられたそうだ。

 

緊急で医者に運んだけど、あまりに内臓がぐちゃぐちゃで、数時間で死んじまったのさ。

俺はもう、悲しくてつらくて、悔しくてよお・・・。

 

だから、俺の代わりにお前たちで、俺とアイツの思い出話の代わりに、お前たちで最後の高校生活の時間を目一杯、語り合って思い出にしてくれ!

それが、俺の最後の望みなんだ・・・・。」  

 

警視のお父さんが、飲みつぶれて泣くなんて想像してなかったので、息子も奥さんも驚いていましたが、遅くなったので、「夜道だけど、自転車で帰るわ!」と言うと、飲みつぶれていたお父さんがガバっと起きて、

「おい、〇〇を呼べ!あいつに、この吉岡君を家まで送るように言え!

俺の命令だ!」とだけ言って、また寝ました。

 

奥さんは、警察官舎の数件先の家を訪ねて、

「少し飲んでるけど、大丈夫だよね。

父さんが良いって言ったんだから、あとは任せなさい。」

と部下に命令して私を家まで送り届けてくれました。

 

パジャマ姿でパトカーを運転する警察官のトランクに私の自転車を入れて、ゆっくり6km先の家まで送ってくれました。

あまりに急なことで申し訳ないと言うと、

 

「いや、俺もあの人がいなかったら、とっくに警察なんてやめているのさ。

あの人は、警察官だから良い人じゃなくて、人間として本当にすごい人だからどんな人でもあの人の悪口を言う人はいないぞ。

 

俺が昔、上司と言い争いになった時、俺を殴った上司を殴りつけて、その上の上司にまで問題を持っていって、謝らせるほど、覚悟が座った人なので、絶対に上司でもあの人を敵には回したくないというほどの人なんだぞ!」

 

自分も半端じゃない覚悟で生きているけど、やっぱり、上には上がいるもんだと学ばせてもらいました。

初めて乗ったパトカーだったので、人がいないところで赤色灯をつけてサイレンも鳴らしてもらいましたが、自分の家が見えてきたので、止めてもらいました。

こんなことを我が家の母に知られたら、とんでもないことになるので、「知らぬ存ぜぬ」を通して、翌日、無理矢理、男たちだけの一泊を強行しました。

 

「今日は帰らない。迎えもいらない。」と母に言うと、電話の向こうで、そんな息子に育てた覚えはない」と母が泣いているので電話を切りました。

目一杯、楽しんだ翌日、殴られるのを覚悟しながら、どんな事情があったのかを全て話しました。

 

「あの警察署長の息子がお前の同級生なのかい?本当に?

以前、芦別に赴任した新任の警察署長さんからお話があると聞いていってみたんだけど、交通安全の話かと思ったら、自分の親が苦労していたので、やっと、警察所長になった時に、親が涙を流した話をしたのさ。

 

もう、私も一緒に泣いたくらい、本当に、心が優しい人だとわかったから、バカなお前の話は一応、聞いてから殴ろうと思っていたけど、我慢するわ。

あの警察署長さんが、高級なお酒を息子に持たせたんだね。

すごい人だわ。お前もいい同級生に恵まれたね!」

と母は殴らずに許してくれました。

 

翌日、野菜を目一杯、トラックに積んで、芦別警察署の職員さんへ持って行ったのは、母の恩返しです。  

立場がどうであれ、人間として、もっとも大事な付き合いができる人間を信用しなさいという母の教えは、一生の宝となりました。

ありがとうございます、お母さん。

 

  芦別高校三年3組の卒業写真を撮ったあと、校門を出ようとすると、2階の窓の校長室から大声で、

「問題児!、卒業おめでとう!」

と大声で叫ぶ涙顔の校長先生の顔が見えたのが、最後の思い出です。

学校一、最高に仲間意識が強かった同級生のヤツらにも、ありがとうございます!  

 

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