人生って楽しいですか?
岡山県の大学生時代、2回生から3回生に進級できずに留年して、1年間、実家に帰らずアルバイト生活をしていたある日のこと。
当時のアルバイトとしては一日6,000円という高額なアルバイトだったので、多くの学生がアルバイト情報誌を見て集まりました。
集まった場所は、トラック数台が並んでいる大きな倉庫で「ちり紙交換の会社」でした。
二人一組になり、指導してくれる男性のお手伝いを1日、やった翌日は、もう一人で1.5トンのトラックを運転して自分で新聞や雑誌を集めてくるバイトです。
トラックに付いてるボタンを押すと、スピーカーから「雑誌、新聞、不要なものはありませんか?ティッシュやトイレットペーパーと交換しますよ」という声が流れます。
でも、慣れていないので、お客さんが団地の上で手を振っていても気づかないし、門の外まで運んでくれている人をバックミラーで見つけてバックすることを繰り返しました。
場所は、真夏の岡山市内なので、気温は36℃以上なのに車にクーラーなし。
汗だくになりながら、集めた新聞紙の束に横になれるのは、お昼ご飯の1時間だけ。
だって、600kgを集められない日の収入はゼロだし、さらに、手渡したティッシュ代もガソリン代も給料天引きなんです。
最初の1日が終わって、重量を計る場所でトラックごと軽量台に乗り、荷物を全て降ろしたあと、もう一回、計量台に乗ると重量がわかります。
初日は、360kg。
つまり、収入ゼロ➖(ティッシュ代+ガソリン代)で、赤字です。
毎日、出勤すると、あれだけ居たアルバイトがどんどん辞めていきます。
一週間後に残ったのは、私一人でした。
今までも10種類くらいのアルバイトを中学生の頃からやってきましが、人生でこれほど辛いバイトは無いと思ったので、「これも人生の勉強だ!』と思って1ヶ月間、やることを決めました。
きっと、お金はたいしてもらえないけど、人生でもこういう辛い経験はきっといつか、どこかで役に立つだろうと思ったからこそ、1ヶ月間、続けました。
毎日、クタクタ・ヘロヘロで、家で夕食を作る元気も無いので、居酒屋でビール1杯・白ご飯・味噌汁、焼き鳥が毎日の夕食でした。
いつものお店の、いつもの席に座ると、毎日のように同じ席に座って飲んでいる男性を見つけました。歳のころは、50代。
労働者風のその男性は、がっしりした体なのに、一人でいつも飲んでます。
自分も、もしかすると、ああいう風になるのかを思って怖くなったので、この男性がどういう人なのか興味が出たので、隣の席に移ってこう質問しました。
「人生って、面白いですか?」
男性の答え「そのうち、わかるよ。」
このたった一言で、私の頭の中は真っ白になり、クラッシュしてしまいました。
なんてこった!俺は自分の価値観でこの男性を評価していたからこそ、辛いとか、苦しいとかを共感したかったのに・・・
俺のほうが、もっとバカで浅はかだったことをこの一言で気づかされました。
本当は、毎日、暑いし、辛いし、苦しいので、共感して欲しくて聞いただけだったのに、たった一言で「絶句」です。
このあとは、何も会話することができず、一人でサッサとご飯を食べて帰りました。
愚かです、本当に自分は・・・人を自分の価値観で判断してはいけないという学びをさせてもらいました。
1ヶ月間のちり紙交換アルバイトが終わったので、事務所へ給料を頂きに行きました。
指導してくれた男性から、社長は大きな声で呼ばないと聞こえないから、大きな声でな!と言われたので、事務所のドアの前で、「給料をもらいにきました!」と大声を張り上げると、面倒くさそうな声で、「おー、入れ!」とだけ聞こえました。
ドアを開けてびっくり!
ソファに横なってる太っ腹の男性は、腕には彫り物が見えるし、右の壁には日本国旗と神棚と、組の紋のような旗も見えたので、早々に、帰ろうと思っていると・・・
「1ヶ月間、頑張ったんだってな。ご苦労。どうだった、このバイトは?」
「はい、とてもいろんなことが勉強になりました。でも、今日限り、辞めさせて下さい。学生なので、まだやりたいことがありますので。」
「そうか、わかった。また、いつでも金が無くなったら来いよ!」
お辞儀をして部屋を出ました。
「二度と来るかい!」と心の中で思いましたが、人生でこんな体験もなかなかできないので、1ヶ月間、頑張ってやり通した自分へのご褒美に、いつもの居酒屋で、1品だけ料理を増やして注文しました。
すると、先日、声をかけた50代の男性が横にやってきて、「お!この前の学生か?」
「はい」
「横に座っても良いか?」
「はい。」
「おー、今日はちょっと多いんじゃないか、頼むものが・・・」
「はい、今日は給料日なので、自分にご褒美です」
「そうか、ご苦労さん。俺なあ、この前にお前に余計無いこと言わなかったか?」
「いえ、こちらこそ、失礼なことを聞いてすいませんでした。」
「いやいや、謝るのは俺の方さ。
あの時なあ、ちょっと会社の上司と嫌なことがあってむしゃくしゃしてたんだ。
だから、ちゃんと答えてやらなかったことを反省したんで、今度、会えたらビールでも奢ろうと思ってたんだ。まあ、1杯飲め!」
僕は、涙が出そうでした。
本当は、こんなに優しい人なのに、自分勝手に相手を判断して本当に失礼な奴なのに、ビールまで奢ってくれて・・・情けないなあ、自分は・・・。
「おい、何、泣いてんだよ。何か嫌なことがあったのか?話してみろ!」
いえいえ、僕が自分のバカさに気づいたので、悔しくて泣いてるだけなんです。御免なさい、気を使わせて。
「お前、ちゃんとした家に育ったんだな。俺なんかと全然、違うわ。
俺な、母親しかいないのよ。
親父は酒飲みで、たまに仕事してお金が入るとどこかへ行っていなくなるので、いつも母親が俺や妹の面倒を見てくれたのさ。
母親は、3つも仕事を掛け持ちしてたんけど、愚痴ひとつ言わない母親だったので、俺も結構、好き勝手にやってたんだ。
そんな時、つい、友達と喧嘩して相手を殴ってしまって、学校から呼び出された母親に、初めてゲンコツで殴られたのさ。
母親が目にいっぱいの涙を溜めて・・・
人様に迷惑をかけるなら、この家から出ていきなさい!
私が毎日、働いているのに、お前は好き勝手しかできないのかい!
自分のことしか考えられない人間なら、うちの子じゃない!
出ていきなさい!とものすごく怒られたんだ。」
僕の母親も怒ったら、とんでもない人に変わります。
真っ赤になった鉄の棒を持って、追いかけてきますから(^^)
「お前のおくふろも同じか(^^)まあ、飲めよ」と、また酒をご馳走してくれます。
日本酒、飲めるか?そうか、じゃあ、日本酒にしようと冷や酒を飲ませてくれました。
恥ずかしいうえに、申し訳ない気持ちでいっぱいなので早く帰ろうと思っているのに、どうやら今日は、この人が僕と話したいとわかったので、腹を据えて一緒にトコトン、話し込むことにしました。
最後に私が、「ごちそうさまでした。失礼します!」と頭を下げると・・・
「俺は人様に頭を下げられる人間じゃあ無いので、辞めてくれ!
俺が恥ずかしくなるからさ・・・」と言って、後ろを振り向いて泣いていました。
もう一度、深々と礼をした帰り道、人生で一番大切なことを教わったと思いました。
いつも街を歩いている大人たちを自分勝手な価値観で評価してはいけないことを学ばせて頂きまして、本当に、ありがとうございます。